生活とがんと私 Vol.1 永江耕治さん2

最終更新: 5月30日

がんと働く応援団 連載企画 Vol.1

~ 生活とがんと私 ~


長寿大国日本。生涯を通して2人に1人ががんを経験すると言われ

そのうち3人に1人は就労している年齢でがんを見つけています。

いざ自分がなった時、そして周囲の誰かがなった時

慌てず対処するためには、経験者の話に耳を傾けるのが一番です。

”がん=死”というイメージを払拭する為に様々な体験談をお届けしていきます。


【がん経験ストーリー&働く世代罹患者へのメッセージ】(2/3)


2020 年 5 月 29 日

語り=株式会社エーピーコミュニケーションズ 永江 耕治

取材=一般社団法人がんと働く応援団 野北 まどか

文 =一般社団法人がんと働く応援団 吉田 ゆり 

写真=株式会社エーピーコミュニケーションズ提供


インタビュアープロフィール


お名前:永江 耕治

職業 :株式会社エーピーコミュニケーションズ 取締役副社長

がん種:精巣腫瘍

ステージ:ステージI

治療内容:手術→BEP療法2クール→寛解

1973年生まれ、神奈川県育ち。青山学院大学卒業後、Web制作会社勤務を経て、

2002年に株式会社エーピーコミュニケーションズに入社し、

2008年執行役員、2018年取締役副社長に就任。2012年、業務の傍らMBA(中央大学大学院人的資源管理専攻)を取得。

2010年、36歳の時に精巣腫瘍が見つかり、手術、抗がん剤治療を受け、半年後に復職を果たした。その後は、仕事を続けながら、がんに関わるさまざまな組織役職に就任。現在は「がん医療と職場の架け橋」アドバイザー、「一般社団法人キャンサーペアレンツ」理事も務めている。



目次

APCでの取組事例の紹介&企業担当者へのメッセージ(1/3)

・がん経験ストーリー&働く世代罹患者へのメッセージ(2/3)

・家族との関係・がんになって変わった事  (3/3)



―永江さんご自身について教えてください。


学生の頃にWEB制作のアルバイトをしたことがスタートで、その後プログラマーになり、エンジニアとしてAPCに中途入社しました。

8年技術者として働き、その後2004年にマネージャー、2005年に部長、2008年に新規部署執行役員に就任。2015年に人事制度や評価を担当する執行役員になりました。

その後も2年間事業部執行役員をやり、今の全体の執行役員になりました。


―がんになった時の事を教えてください


2010年にがんになりました。病名は精巣腫瘍で、8月に告知を受け、その当日手術、そして治療が始まりました。それまでは終電で帰るばかりの生活だったのですが、この経験は「以前のような生活に戻るのはどうなのだろう」と考えるきっかけになりました。

半年間休職をして復帰し、初日は定時で帰りました。「これからは長時間労働はやめる」と考えていましたが、3か月後には普通に戻っていました。今は長時間の残業をすることはありませんが、ワーカホリックであることは変わりません(笑)

しかし、心がけとして『家族との時間を大切にする』というのが出来ました。



がんになった時の事は、実名で毎日Twitterに投稿していました。それが、新たな人との繋がりをうみ、そこから生まれたご縁もあり、社外で話したりアドバイスするという活動を積極的に行う事につながりました。その頃から社会の為に何かしたいという思いもありました。

インタビュー記事がウェブメディアに掲載される事も増え、自社の社員も自分の病気を知る事につながりました。



―半年の休職を決めるのに不安などはありませんでしたか


最初から休職期間が決まっていたわけではなく、転移がどれくらいあるのかで変わるものでしたので治療をしていく過程で決まっていきました。

いつになったら終わるかはわからない、当時の心境としては今経験しているコロナウイルスのような感じでした。


―自分の仕事をどう回そうと思っていましたか


仕事の不安はありませんでしたが、それと社会復帰できるかは別問題。

社長は「いつでも帰ってこい」と言っているし、会社に対する信頼はあったけど、(会社の)状況は変わるし、自分がどうなるのか、本当に働けるようになるのかという不安はありました。


―その不安感をどのように乗り越えていきましたか。


不安への対処については、たぶん年齢が良かった。

罹患したのは36歳の時だったので、それまでの経験値があった事で物事を受け止められたのはとても良かったと思います。

もし罹患したのが20代だったら、ストレスや物事の捉え方が違い、うまく対応できなかったかもしれない。仕事を通して沢山大変な思いを経験していたことがあったから受け止められたかもしれません。


―不安に対する対処のコツをこれからなるかもしれない人へアドバイスするとしたら


当時探したものは、良くなった人たちの事例(ブログ等)でした。働く世代で罹患すると、「また働けるのか」という不安が出てきます。そんな時、元に戻れる人がいる、そういう実例を見るとそれがたとえ、同じがん種の話でなくても本当に励みになりました。自分もいつかそうなれるといいなと希望の一つとして読んでいた時がありました。


―確かにそういう人の話を目にすると元気になりますね



メディアは悲劇の方を伝えがちです。そちらの方が感動を呼びやすいですからね。

そんなことから、がんになっても普通に生活している方はニュース性が少なくて伝えられていませんでした。最近そんなメディアの姿勢が批判され、緩和されてはきましたが。

その結果、多くの人が未だにがんになった事は公表したくないと考えています。なぜなら、「早くに死んでしまうかもしれない」、「再発するかもしれない」と相手に懸念され、就職、結婚恋愛の差別につながるかもしれないと感じているからです。

そうした不安を感じているAYA世代のがん罹患者の人達に、「がんになってもキャリアアップ出来る」という事を自分は伝えたいと強く思っています。


―復職後、自分の希望と現実とのすり合わせ・工夫や葛藤を教えてください


周囲も普通に接していましたし、葛藤はそんなにしていませんでした。

極力残業しないようにと思っていましたが、2週間もしないうちに休日に出て欲しいという声がかかったり(笑)そして、2011年1月に復帰した後まもなくして東日本大震災が起きました。

その時自分は、人事の一番責任あるポジションにいたので他の役員と共に、社員の安否確認を翌日昼までずっとしました。一夜明けた後も昼までやって、やっと全員の安否確認をして帰りました。

その後も計画停電、客先勤務についての調整など、イレギュラー対応を先頭に立ってやらなくてはいけない時期があり、徹夜続きもありました。

責任あるポジションだったからこそ、あれがきっかけで再覚醒した感じですね(笑) 

しかし、『家族との時間を大切にする』という考えに変わったというのは根底に残りました。



入院中、いつ社会復帰できるという保証がありませんでした。

転移はありませんでしたが、後遺症が残る可能性もありました。

なにも確実なものがない中、病室の外、朝晩スーツ姿の人を見て、心の底からうらやましいと思いました。「仕事大変で、満員電車嫌だけど、明日どうなるかわからない気持ちで病室にいるよりも全然いいな」と本当に思いました。それは今でも忘れられません。

がんになった経験から、日常に対する感謝の気持ちは強く持てるようになりました。

感謝の気持ちを持てるようになるとストレス耐性も強くなると今は思っていて、それは仕事に対しても活かされてると思います。


―企業に受け皿がない、がんに対する誤解が多い等継続就労に悩んでいる罹患者にアドバイスいただけますか


企業のメンバーから「残って欲しい」と思われる人であれば制度がなくても臨機応変に対応してもらえて何とかなります。したがって当事者になる人の信頼貯金も重要です。

患者団体に参加した時に感じたものだけど、「がんになったから」と一律に下駄をはいて「私の為に何かをして欲しい」と思うのは違う。最低限のセーフティーネットは必要だけれども、一律のものを企業に対して求めるのは難しいと思います。

やはり病気になる前までに培った人間関係や貢献によって、その後受けられるサポートは変わってくると思います。


では、具体的にどうしたらいいかと聞かれたら、「問題解決のプロセス」で復職後の生活をイメージし、考えた方がいいかと思っています。

がんを罹患した人が就労に苦労している→どこに問題がある?→なぜ問題が発生している?というような形で考えていきます。ぼんやりとしたイメージではなく、具体的に問題点を見つけ共有する事で周囲からの理解やサポートが得られやすくなるのではないでしょうか。


次回は【家族との関係・がんになって変わった事】をお届けします。

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