がんの患者さんやサバイバーさんを病院内外で支えている専門家の方たちをご紹介するシリーズです。
その方たちのことを少しでも身近に感じていただいて、いざという時の頼り先として知っておいていただければと思います。
がん相談支援センターの存在はご存じの方も多いと思いますが、実際にご利用になられた方は意外に少ないのではないでしょうか。今回は、聖路加国際病院(以下、聖路加)のがん相談支援センターの橋本看護師から、具体的な相談内容・活動内容についてお話を伺いました。
<目次>
1.がん相談支援センターについて
2.がん患者としてではなく自分らしく
3.知ることを知る
4.就労相談への対応について
【1.がん相談支援センターについて】
Q:聖路加のがん相談支援センターについて
橋本さん(橋):がん相談支援センターは全国のがん診療連携拠点病院*に設置されています。患者さんやご家族の方、また院外の方もご利用いただけるセンターです。研修を受けたがん専門相談員が対応しています。施設によって、看護師やソーシャルワーカーの方が担当しています。聖路加では2008年から設置されております。がん専門病院ではなく総合病院ですのでがん以外のご相談も対応しています。また、医療連携室も兼務していますので、受診相談や自宅近隣のクリニックや医療機関との連携、治療後の相談の窓口にもなっています。
(*編注:全国のがん診療連携拠点病院は全国に400か所以上あります。お近くの病院をお探しの際はこちら(がん情報サービスのサイト)からご確認いただけます)
Q:どのような方がご相談に来られるのですか?
橋:本当に様々な方がいらっしゃいます。治療前、治療中の方だけでなく治療が終わってからいらっしゃる方もいます。また、聖路加の場合は相談件数の約半分が院外の方なんです。相談内容は受診方法から治療の見通しについて、不安な気持ちのご相談、他の人はどう前に進んでいるのか、誰にどこまで伝えるべきか、生活への影響、経済的なことなどいろいろです。内容によって医師はもちろん、ソーシャルワーカーが対応したり、栄養士、社労士、心理士など様々な専門スタッフの方におつなぎすることもあります。
Q:院外の方が半分もいらっしゃるのですね。具体的な相談事例を教えてください。
橋:例えば、クリニックで診断を受け、次までに病院を考えてきてくださいといわれたタイミングでのご相談はよくあります。そういうときは、病院選びのご相談にのることもあります。症例の多い病院を選ばれるのか、通院しやすい病院を選ぶのか、相談者の方の診断や治療内容、病状をうかがい治療の見通しをお伝えしながらその人にあった病院をご紹介していきます。また医師との診療の際には、ご自身が3か月後6か月後にどういったことを予定していたのかなど、治療と生活の見通しがつくようにそれを整理してお見せするようにアドバイスすることがあります。
【2.がん患者としてではなく自分らしく】
Q:それは変わったアドバイスですね。どうしてですか?
橋:私自身、相談される方が、患者としてでなく自分らしくあっていただくために何ができるか、をいつも念頭にご相談をうけているのですが、実は医師たちも同様なんです。「手術して病気を取り除くために体の一部を切り取ることはあるけど、その人の人生まで切り取ってしまうべきでない」と当院の医師がよく言います。「治療はその人の人生を豊かにするためのもの」という考え方を持っています。ですから、その方が大切にしていることを理解したうえで治療計画を考えていけることは医師にとってもうれしいことなんですね。でも、患者さんは通常そういう医療に関すること以外のプライベートなことは医師に話してはいけないと思ってらっしゃると思うので、そっと背中を押す感じでお伝えしています。
Q:「患者としてではなく自分らしくある」、というのはとても大事なことですね。
橋:そうなんです。どうしても治療で痛みが出たり、今まで普通にできていたことが急にできなくなったり、周りの人との関係の取り方を悩んだり、いろいろな変化がご自身に起こります。そうした様々な変化を受け入れながら、社会とか人とのつながりを保って自分らしく生きるよう皆様一歩ずつ進まれているのを拝見してきているのですが、簡単なことではないですよね。治療前の準備や治療中のことについてまとめた冊子や本はあるのですが、治療後のことをまとめた専門の本や情報は意外に少ないないんです。
中には、再発をしないように運動もして食事も気をつけて甘いものも避けて、免疫力を最大にするために22時には就寝して同時に仕事もして、と病気を中心においた生活を頑張りすぎてしまう方もいらっしゃいます。経過観察になって外来の頻度が3か月、6か月になったころに不安が大きくなってしまう方も少なくありません。そういった方たちには、例えば栄養士の方に食事のバリエーションをお伝えいただいたり、心理士の方とお話いただいたり、サバイバーの方と意見交換していただいたりして、本当は好きだったことや、やりたかったことを思い出していただくようにしています。そうやって自分らしさを取り戻していいただくお手伝いをしています。
【3.知ることを知る】
Q:ほかに大事にされていることはありますか?
橋:そうですね。「知ることを知る」、つまり、様々な場面で治療や周りとの関係や生活の営みの中でたくさんの意思決定を自分がしなければいけないことがたくさんあります。その人が自分らしい治療や人生を選択できるための情報支援、あとで「もし知っていれば」とできるだけ後悔しないように、適切な時期に応じて知っておくべきことをお知らせすることも大切な相談支援センターの役割だと思っています。不安で頭の中が真っ白で緊張の中にいるからもう聞きたくない、という患者さんも、治療を決断しなくてはいけない、時間が限られている場合も少なくありません。何を知っていたらより安心していただけるのか考えながら、一般的な治療の話だけでなくいろいろな患者さんのケースをご紹介したりしながらお話をすることもあります。
また、よく言われるのが「自分でどうしたらいいかを気付かせてほしい」ということです。常に医師や看護師がそばにいられるわけではないので、その時に何を知っておくべきなのか。治療によって生活や仕事に影響が出そうなことをお伝えして、相談者の方の価値観や自分らしさの両立にはどのような課題がありそうかなどをあらかじめ話し合います。情報提供することも大事ですが、なぜそれを知っておいたほうがいいのか、それを知っておけば次に何をすればよいかが分かるようにお伝えしています。
【4.就労相談について】
Q:就労に関する相談はありますか?
橋:聖路加には乳がんなどの患者さんも多いので、30代から40代の働く世代の患者さんも多くいます。平成24年から治療と仕事との両立を妨げている副作用、しびれ、倦怠感、ケモブレインなどを研究したり、社労士さんやハローワーク相談員、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーの方と勉強会をしたりしてきています。当初は患者さんに社労士さんとの個別面談を用意したりしたのですが、まだ患者さんは、社労士さんが何ができる人かわからない、社労士さんは治療のことが分からない、という形でなかなかうまくいかなかったんです。そこに医療従事者と就労の専門アドバイザーも同席するグループセッションにして、知識だけではなく同じ体験者との情報交換もできる場として「就労Ring」ができました。情報だけでは具体的なイメージにつながらないことも、他の人がどうしているかを聞くことで、問題解決の思考や自分の価値観について考える気持ちが高まる効果があるようです。(*今現在は、就労Ringはお休み中)
Q:最近はそういった就労の相談は増えていますか?
A:そうですね。最近は、企業に提出する診断書の内容をご一緒に相談することがとても増えています。勤務内容、雇用形態などのお話をうかがいながら、治療の負担がどのようにお仕事に影響するか、具体的なイメージがわくようにお話しするようにします。「リンパ切除の後は、高いところのものをとるのがつらくなるから、ファイルボックスを下に置くスペースがあったほうがいいですよ」といった細かいこともお伝えすることがあります。そういう話をしながら、「上司と相談すること」「周りに言うこと」「診断書に書くこと」などを整理していきます。どの時期も悩みはありますが治療と両立する方が増えていますので、抗がん剤治療や復職時の相談、毎年の定期健診などは多いです。ほかにも、治療後の体重コントロールやしびれや体力など後遺症への対応、妊孕性、経済的な相談は多いです。
Q:本当に様々なご相談を受けられているのですね。最後にがん患者の皆さんやサバイバーの皆さんへメッセージありますでしょうか?
A:相談支援センターでお受けするお話は本当に幅広いので、きめつけず必要な時にお声掛けいただければと思います。がんになってしまったことは変えられないけれども、そのあとの生活や人生をよりよくすることのご支援ができればとてもうれしく思います。
橋本さん、お忙しい中どうもありがとうございました!「がん患者としてではなく自分らしく生きる」ということ、そうは思っていてもなかなか難しい時期もあります。そんな時に寄り添っていただけるがん相談支援センターの存在は非常に心強いと思います。
文:一般社団法人がんと働く応援団 野北まどか
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