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【一人で悩まない、抱えない。専門家たちの活用方法 第二弾】  産業保健師(後編) ~治療をしながら働く人の応援団~

がんの患者さんやサバイバーの皆さんを病院内外で支えている専門家の方たちをご紹介するシリーズ、今回は産業保健師の方々に集まっていただきました。(前編から読みたい方はこちらから)

〈後編目次〉


【1.日頃の業務を通じて感じていること】

‐では次に、両立支援の具体例や、これまでの業務で印象に残っていることなど教えてください。

高津戸: がんにり患する方は多くいらっしゃるので、がんって身近な病気になったなって思います。それぞれのケースひとつひとつが印象に残っているかというと、そうではないですね。入院期間も割と短く、休職せずに手術し、化学療法をしてらっしゃる方もいますけど、それでも休職に至るまでの方はなかなかいらっしゃらないんです。それこそ、両立しながら働いているので、相談を受けるケースもありますけど、こちらからは会社の制度等をご案内するくらいです。上司の方との間で、調子を見ながらつつがなく進めている方が多いのかなという印象です。

ただ、割と長くお休みされる場合は、復帰時にどういう点に気を付けたら良いかを産業医にも確認しながら進めるので、り患した方に無理をさせないように、例えば最初のうちは残業してもらわないようにして、フォローアップの面談が進んでいく中で状態を見ながら通常勤務に戻っていただきます。両立のお手伝いをする、という形ですね。

 

千葉:弊社は社員の約6割が女性という特性を持っており、ニーズは調査中ですが、がんにり患されるのは女性の方が多い印象を持っています。

現在もフォローアップしているケースですが、ご本人が直属の上司にがんであることを伝え、治療内容や入院や手術のスケジュール、今後の治療についても共有し、術後、産業医の先生の面談を経ずにご本人の希望で復帰したんですね。復帰して放射線治療やホルモン剤の内服が始まるタイミングで、書類の関係で人事に連絡が入って、ご本人と繋がりました。人事には、仕事と治療、介護、子育てなどご家庭やキャリアの相談など聞いてくださる方がいて、その方との面談に同席したところ、だるさ等の体調に関する細かな点まで、上司に相談できなかったことが分かりました。

「早く復帰してほしい」という職場の思いに対して、ご本人が弱音を吐けない状況があり、でも、私達にはそういうところも率直に話してくださったので、人事担当と私が仲介し、互いの思いを理解し合うことができました。

「相談して良かったんだって安心しました」、「しっかり休んで自分の体にも目を向ける、例えば副作用が出たら記録するなどし、自分の体に目を向けるきっかけになりました」とご本人がお話してくださいましたが、真面目な方ほど “休んではいけない”“休むのはよくない”と考えがちです。ですが、職場の期待やご自身のキャリア等を一旦脇に置いて、今は治療を優先したいというご本人の意向や素直な気持ちを、ラポール(互いに心が通じ合い、安心でき、自己開示のできる関係性が成立している状態)を形成して話を聞けたというのは良かったなと思いますね。

もちろん体調や状況によっては、オンラインで話す時もカメラオフでとか、あまり話をしたくない、という方もいらっしゃいますし、保健師が介入せず産業医さんとの直接コンタクトをとるほうが良い方もいらっしゃいます。ご病気の進行状況、人生に於いてどういったところに価値をお持ちなのか、それを知るためには、本音を話せる時間を設けること、そういう雰囲気づくりも含めて、精神面のケアも非常に大事だと考えています。


高野:私は先ほどお話した大学院(修士課程)のときに、治療と仕事の両立支援について研究しました。育休中ということもあり、一般の16人のサバイバーの方にインタビューをし、治療と仕事を両立できる要素を探求しました。育休が明けて仕事に戻った時に、それらを整理し、提案書の様にまとめ、やりたいことを事務方に伝えました。

というのも、社内に様々な制度はあれど、社員が1万5,000人程いて全国や世界にも散らばっているので、一同に会することがなかなか難しくて。ですから、先ほど千葉さんがおっしゃったように、告知された時点からサポートし、どうしたら良いかを理解してもらえるようなガイドブックを作りました。 そのガイドブックは本人用と上司用を作り、社内イントラにアップしたり、管理職研修等の機会に周知しています。また、サバイバー、がんに限らずなんですけど、治療と仕事を両立している社員をご紹介する企画をやっています。具体的には、事務職の方とペアを組み、社員にインタビューして、それをホームページにアップしています。座談会的なことをしてらっしゃる企業もありますが、当社はなかなかそこまでいけなくて。でも、社内のイントラで掲示している体験談が社員の皆さんに響いているようで、やって良かったなと感じています。

私自身は野村證券に入社して働いていて、外から来た特別な人ではないですが、自分のことを“両立支援サポーター“と名付けてですね、高津戸さんみたいにオンコロジーの専門ではないんですけど、「何かあったらここに連絡してください」と社員に伝えています。相談の取っ掛かり、窓口としていろんな場面でPRして、相談してもらいやすい形を作っています。

また、社内のイントラに健康サポートプランという形で載せて、こういう制度がちゃんとあって、お金もある程度不安なく治療できるし、こういう風に研修もしてるから、皆さん安心してくださいね…っていうことをいろんなところで話して、それこそ、がんり患に驚いて辞めちゃう…みたいなことがないようにする体制を整えておりますが、なかなか当事者になるとみなさん、冷静ではいられないですね。

「どうしよう…、会社も辞めなきゃいけないし、借金も何千万と負うんじゃないか」といった相談をしてくる方も未だにいらして。二人に一人がんになると知っていても、いざ自分の身に起こると頭が真っ白になるんです。 だから千葉さんがおっしゃったように、まっさらな立場で聞いて話を整理したり、気持ちをなんとなーく穏やかにしながら進めていく役割を担うポジショニングとしては、看護職ってちょうど良いのかなって思ったりしてます。



【2.話したい時は?】

‐がんに罹患した方が希望したら、すぐに産業保健師と面談できるものですか?

高津戸:企業によって事情は異なると思いますが、私の場合はメールしていただければつかまります。ただ、私は社内で唯一の常勤医療職なので、アクセスしづらい人物と思われているかもしれません。今までお話したこともないし…と抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれないです。また、相談したい相手もそれぞれ違うと思います。


‐確かに、誰に話を聞いてほしいと思うかはその方その方で違いますよね。身近な方にまずお話されるのかなと思いますが、職場に相談、あるいはお話されるのか、というところですね。先ほどの高野さんのお話にあったように、2人に1人はがんになることが分かっているけれど、いざ自分の身に降りかかったら、それは本当になってみなければ分からない心情だと思うんですけれども、だからこそ、経済面でも、職場としても支える環境が整っていることを普段から伝えているということは、当事者になった時のパニックを和らげたり、いざという時に思い出してもらって冷静さを取り戻す手助けになりそうです。

高野:このガイドブックは、お休みする際に会社に診断書を出した全ての社員とその上司に、人事が送ります。上司の方は社内サイトで見られるし、社員には印刷物を渡すか、メールを送るか、で対応していますから、基本的に皆さんに見てもらう流れになっています。 とは言っても、全員に十分に周知できている訳ではないんです。私は2005年から現在の会社に在籍しているんですけど、「ここで良いか分からないけれど、電話しました。良かったですか?」みたいな形で連絡が入ったり、「ついさっき告知を受けました」という方から電話が来たりもします。 私が修士の時にインタビューした際、ファーストコンタクトをとる相手として挙げていたのは、医療職ではなく、直属の上司やご家族でした。でも、当事者から話を聞いた側も動転してしまうので、うろたえずに受け止めてほしいなという思いで上司用を作りました。

でも、それってなかなか難しいんですよね。今、学校教育でがん教育が始まっているので、そういうところが分かっている方が増えると、社内も変わるかもしれないですけれど。今仕事をしている人達は、ごく身近な事例やドラマなどの影響を受けると思うので、正しい知識って大事だなって思います。


【3.今後のチャレンジ】

‐ありがとうございます。今お話いただいた内容は、今後について考えていることにつながってくると思いますが、いかがですか?


千葉:高野さんのお話を聞いて、野村證券さんすごく進んでるなと羨ましく思いました。全般的なお休みするときの制度、復帰までの流れ、そういったもののガイドブックは作っていますが、がんの方に向けたものにはたどり着けていないので、すごく参考になりました。

がんに限らず、健康診断の結果、メンタルヘルスのことでお悩みがあったときに、いつでもすぐ相談できるような窓口等を設けて、何かあればご連絡くださいと全社向け研修等でアナウンスしていますが、まだまだやれることがたくさんあるなと思いました。

健康診断の結果、要精密検査になった方への受診勧奨は、産業医の先生に見ていただく書類を添付して、保健師からご本人にメールをお送りしているんですが、健康診断の結果がこちらに届いていない段階で、社員の方から「腫瘍マーカーが非常に高くて要精密検査になりました。」という相談を受けたことがあります。「腫瘍マーカーが婦人科系がんに影響があるものだけど、既に婦人科は受診済みで異常がなかった。でも、他の婦人科も行ってみたい。」とのことで、婦人科の受診結果や評判に納得感が得られていないようでした。

腫瘍マーカーの値について、「生理がひどいとおっしゃっていましたね。子宮内膜症、エストロゲン(女性ホルモン)とか、そういったところにも影響されるので、そこまで心配にならなくて良いと思いますよ。心配であれば、今後のためにも自分が納得できる長く通える婦人科を探してみても良いですね。」といったお話をさせてもらい、「クリニックを紹介してほしい。」というご希望から、今後の早期発見・早期治療という観点でのアドバイスもできたので、両立支援とは異なるかもしれないですが、健康診断を受けていただいて、結果を踏まえて精密検査を早めに受けるなど、定期的にご自身をしっかり振り返っていただくことも大切だと感じています。

高津戸:今、千葉さんがおっしゃっていた、検診の重要性みたいなものはものすごく感じています。定期健康診断の時にピロリ菌が見つかって、その治療のためにやった胃カメラで、初期のがんが見つかった社員がいました。その方は手術して大丈夫でしたし、自覚症状が無かったケースですけれども、そういったなにかのきっかけで受けたものからつながって、健康増進のためにどんどんやっていくうちに、重大なものが見つかるケースもあると思います。そういったことは、地域とか国でなくとも、会社みたいにちょっと小さい単位で推進できることじゃないかなと思っているので、高野さんのおっしゃっていた社内の体験者の話とかに結びつけて、どんどんとみなさんが啓蒙されるような形に持っていきたいなと思っています。

がんに限らず、例えば心筋梗塞のような急に起こってびっくりした出来事って、周りの方にお伝えしたいと思っていらっしゃる方が割といます。そういう方たちがお話してくださると、身近な人の経験談なのでみなさん耳を傾けやすいし、気を付けると思うので、そういったことはやりたいと思っていました。

保健師として健康増進のために取り組んでいくので、がんとは直接関係ないんですけど、そういう活動って、草の根運動みたいなところから社員さんがつながっていったりします。同じ会社にいても、ちょっと事業部が違うだけで全然皆さん知らない、みたいなことが起こり得ますし、仕事をするだけではネットワークがあまり広がらない側面があるので、社員の体験談的なことが、社員同士のネットワーク形成につながると良いなと思っていたところ、高野さんの話が聞けたので、ぜひやってみたいなと思いました。

何の理想もなくスタートしたキャリアですが、重病になる前に健康を取り戻されたり、健康になっていく様子を確認できるのが産業保健の良いところなんじゃないかな、と思っています。

高野:看護職はハブになる存在であり、潤滑油的な役割を担うのが看護職だなと思いながら、お二人のお話を聞いていました。

高津戸さんのお話にあったように、がん患者の方の入院期間って短いし、人知れず治療されてる方は結構いらっしゃると思うんですよね。り患者の方から継続的にお話を聞いていて、やっぱりその時その時で体調が変わったりだとか、そういう変化はなかなか職場に伝わらないこともあるし、がん種やがんの副作用もたくさんあるので一概に言えないですけど、変化するところが、がんの特徴であるかなと思っています。 どこまで会社に言うか、どの程度配慮してもらうか、は一回の産業医面談でカバーできる訳ではなく、日々で変わるものだと思っています。私たちは診断書やご相談のように、いただく内容からの入りが多いので、もし抱え込んで、我慢しながら、治療をしているとしたら、例えば、ご自身の生活の質が落ちていたり、業務のパフォーマンスが落ちていたり、という影響があるんじゃないかなと考えますし、無理なくいられる状態になっていただく為に自分たちが役立てることはないのかな、と思います。地域とどう関わっていくか、これから人生100年時代になると高齢の方も働いていくでしょうし、その中で、どういう人たちとつながりながら、働く人を産業保健師として支えていくのか、ということを今後考えていかなきゃいけないなと思っています。




‐産業保健師のみなさんが真摯にお仕事に向き合っている様子が伝わってきました。共通するのは、健康維持のお手伝いができること、健康を取り戻していく過程を伴走していくこと、当事者の希望に添うサポートを考えること、そういったところにやりがいや喜びを感じながら、日々の業務に邁進していることでした。

 がんと仕事の両立支援に携わる専門家の思いは、職種に関わらずあたたかみのあるもので、そういった人の思いに触れることは、当事者のみなさんが自身の希望を叶える生き方を選択する上で必要不可欠なのではないかと感じました。さまざまな人の言葉や思いに傷付くこともあるかもしれませんが、ご自身のサポーターを見つけて、前向きに進んでいけるよう応援しています。




取材、文:一般社団法人がんと働く応援団 碇一美



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