GHO連載企画 治療と仕事の両立支援に取り組む企業様インタビュー
高齢化社会・女性の社会進出・医療技術の進歩・定年制度の見直し等
企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。
企業を支える社員が安心して、ライフイベントと仕事の両立を図れる環境を提供する事で
経営陣と共に、企業を成長させる一員として社員が独自のスキルを使い活躍してくれることでしょう。
そこで先陣をきって両立支援の取り組みを行っている、企業様の事例からヒントを得られるようインタビューし、ご紹介していきます。
今回は、がんアライアワード2023ゴールド、およびベストプラクティスを受賞され、先進的に両立支援に取り組まれている大鵬薬品工業株式会社をインタビューしました。
お話を伺った方:
大鵬薬品工業株式会社
人事部
末成美奈子様(左)
三田明様(中央)
亀田浩子様(右)
目次:
・大鵬薬品工業について
・両立支援を始めたきっかけ
・社員の学ぶ姿勢
・システマチックではなく、一人一人に最適な支援を行う
・社員や経営層の反応
・今後の展望
・これから両立支援をしていきたいと考える企業にメッセージ
大鵬薬品工業について
‐事業内容を教えてください
(三田)当社は大塚ホールディングス傘下の会社で、医薬品などの製造販売を行っていま
す。チオビタドリンクやソルマックといったヘルスケア商品が有名ですが、抗がん剤が主
力事業です。全国や海外に拠点があり、国内2,000人規模の従業員数です。
両立支援を始めたきっかけ
‐両立支援を始める前はどのように支援をおこなっていましたか
(三田)私が会社に入ったころは、上司と部下の関係が、親子や兄弟のような感じでした。全社的な両立支援制度はあまりなく、事情を汲み取って配慮を行う個別対応が中心でした。また、抗がん剤の研究開発を行っていたためか、疾患を持った人をあたたかく見守る風土がありました。しかしながら、個別対応だったため、例えば男性が上司で部下が乳がん罹患者だと相談しづらいこともあったかもしれません。状況によって支援にばらつきがあったかもしれません。
‐その後どのように両立支援が制度化されていったのでしょうか。
(三田)2013年ごろに、人事部で開催した社内勉強会をきっかけに、会社として就労支援に力を入れはじめました。私が人事部に異動した2016年頃は、しっかり制度を作ろうとしていましたが、まずは風土を大切にし、今ある制度を見える化しようとメンバーに伝え、全社に働きかけることとしました。
‐当初はどのように進めていったのでしょうか。
(三田)まずは「がんに罹患した社員の就労支援ガイド」を作成し、他部署と協力して社内での啓発活動をしました。2016年に東京都の「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰」受賞後、広報と連携してニュースリリースをだし、東京都の認定ロゴマーク*を名刺に入れ、我々の活動をできるだけ外部に見えるようにしました。
*「東京都ワークサークルプロジェクト がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業」認定ロゴマーク
‐具体的にはどのような制度設計をされたのでしょうか。
(三田)以前より有給休暇や半日有休はありましたが、コロナ前からリモートワーク制度やフレックスタイム制を取り入れました。リモートワークに難色を示していた部門もありましたが、リモートで出来る仕事もあることを認識してもらい、浸透していきました。また、紙資料をデジタルに変えて、徐々にリモートで働きやすい環境に変えていきました。これらの制度は、がんに罹患した社員の支援だけを目的に作ったわけではなく、様々な背景をもつ人が働きやすくするよう作られています。
また、制度だけでなく相談体制を大切に考えており、医療職(保健師、看護師)や、がん治療と就労サポーター、両立支援コーディネーター、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント等の専門家が多く在籍しておりますので、相談体制を充実させていきました。
‐制度は社員の要望を受けてつくったのでしょうか?
(三田)いえ、社員から直接依頼があったわけではありませんが、各現場の経験のある人事部メンバーと共に、各現場の働き方を考え、様々な背景をもつ社員が活躍できるように検討をすすめました。
社員の学ぶ姿勢
‐現在も社内で勉強会をしていると伺いましたが、どのような内容なのでしょうか
(亀田)人事部のような管理部門にはがん教育の機会があまりなく、現場の方と比べると知識の差がありました。現在毎月1回、医療職も在籍する人事部健康支援課で勉強会をしています。内容としては各がん腫の基礎知識や治療法、副作用などについてディスカッションしながら学んでいます。
ーとても熱心な方が集まっているのですね
(末成)抗がん剤メーカーにいるので幅広い知識を身につけたいという思いがあり、勉強会が盛り上がっています。営業や研究部門から異動してきたメンバーが講師となり、医療職もいるので、それぞれの現場経験を話してもらっています。
(亀田)人事部健康支援課のほとんどのメンバーは両立支援コーディネーターの資格をとっています。また健康支援課に限らず、人事部のメンバーは支援に活用できるFPや産業カウンセラーといった資格を、自ら受講して取得しています。皆さん積極的にチャレンジしていますが、必要だと思った人が、必要だと思う資格を自ら取って活かす形になっています。
‐なぜそこまで頑張れるのでしょうか
(末成)同じ資格を取ると、共通言語が出来るんです。同じ方向を向いて寄り添うために、資格取得を目的とせず、自然と取得しようとする雰囲気があります。
システマチックではなく、一人一人に最適な支援を行う
‐これまで実施されてきた両立支援での成功事例を教えてください
(末成)色々なケースがありますが、どれも成功だとは思ってはいません。がんにならないで済むなら罹患しない方がいいのはもちろんですし、人によって回復したり、長い間治療しながら両立する方、残念ながらお亡くなりなる方もいらっしゃいます。人それぞれどこまで支援してほしいかのニーズが違うので、主治医と家族と会社とが一つのチームとなって、一人ひとりに寄り添った支援を行っています。
‐仕事と両立したい、という希望を持たれている社員の方にはどのように接するのでしょうか
(三田)できるだけ仕事を続けたいという方も多くいらっしゃいます。主治医の意見を聞きながら会社としてできることをお願いしていくのですが、安全配慮義務の部分もあるので、本人の希望と家族の希望が違うという事もあります。
(末成)会社としてはどこまで仕事してもらえるか主治医や産業医に相談しながら、現場の上司もチームに入ってもらって連携しています。制度面ではリモートワークや有給休暇、時間単位有休を活用してもらっています。例えば、抗がん剤によっては、ある時期に免疫が下がることもあるので、健康配慮として出勤ではなくリモートワークにするケースもあります。そういった場合には治療計画を共有いただき対応しています。その人その人の状態に応じて確認しながら進めています。
‐具体的には、がんの両立支援に関して相談がある場合、どのようなフローになっていますか
(末成)がんになったという相談をもらうと、まず社内の医療職に相談がいきます。その際に、本人のニーズや同意があれば、両立支援コーディネーター等の関係者が同席します。初期の段階で、社内や社外の制度をしっかりわかっているメンバーに直接相談できることが特徴だと思っています。本人に同意を取った上で、相談内容に関してよりよい支援ができるプロフェッショナルを紹介することが一番いいと思っています。
(三田)困ったときにお互いに助け合うことが当たり前になっているので、円滑に情報共有と相談ができるようになっています。
‐実際に運用する際のポイントはあるのでしょうか。
(末成)独立組織ではなく、人事部内に健康支援課があり、産業医療職がいることがポイントだと思います。守秘義務を守ったうえで人事と医療が部門をまたぐことなく連携できています。そして、上司とも連携し、社員の方の意向に最大限寄り添うので、信頼が得られているのかなと思います。
(三田)支援のためのきっかけを作ることも大切です。例えば、新しいパンフレットを配布したり、新しい情報を得たら共有するなど、啓発活動を行うことで、何かあった時に、「そういえばこういった情報があったな」と思い出していただけるようにしています。
社員や経営層の反応
‐さまざまな制度を導入される中で、反対もあったと想像するのですが、どのように進められたのでしょうか
(末成)経営者側の立場からすると、業務により適応できるのか、制度の悪用が心配、という意見もありましたが、一人ひとりの取締役に丁寧に説明して承認を得ていきました。最終的には制度を承認するかどうかの権限を、部門長に移譲しているので、適切な業務内容であるか、その方が適切な制度運用ができる方か、総合的に判断してもらう形にしています。
‐実際のところ、出社予定の社員がリモートワークとなると、上司からの困ったという話がありそうですが、どうしていますか
(末成)がんをはじめとした両立支援を担当して4年ほどになりますが、上司から困るという相談はありません。本人が上司としっかり相談した上で、上司から完全リモートの申請をいただくので、職場でも受け入れられ、勤務されていると思います。
‐リモートワークができないような現場の方に対しては、どうしていますか
(三田)例えば営業といっても、車で移動される方や、デスクワークの方がいたり、研究所や工場において完全防備の服の着用が必要な環境で働いている方もいます。それぞれの働き方で困ることも異なります。それぞれの働き方や困ることなどを患者であるご本人とも確認して、それらを考慮し、引き続き活躍できるよう、部門変更や、同じ部内での異動も検討します。
また一時的に業務量を軽減した社員がいる場合、それをカバーする社員に対して行動評価の「チーム貢献」の項目で評価をしています。業績だけでなく行動もしっかり評価することを大事にした人事制度になっています。
‐これまでの話を伺っていると、全体的に人にやさしいマネジメントをしている印象があります
(末成)もともと社風として社員を温かく支援する風土があります。入社される方も、抗がん剤メーカーであるためか、人の役に立ちたい、患者さんのために貢献したいという方が多いです。自然と人にやさしいマネージメントになっているのだと思います。
今後の展望
‐会社としての今後の展望を教えてください
(三田)制度だけではなくインフラの整備も進めています。例えば、社内にオストメイトを整備しておりますし、埼玉の研修センターでは避難指定されているので、がんに罹患されている地域住民の方もいざとなった時に安心できる環境整備を進めています。
(亀田)大塚ホールディングスには多くの企業がありますので、治療と仕事の両立支援をグループ内にもっと広げたいという思いがあります。そして、他の企業と連携しながら社会全体の意識を高めて行けたらと考えています。
(末成)時代と共に治療や患者さんのニーズが変わってくるので、都度検討して会社としてできることをやって、「この会社で働けて良かった」と思ってもらえるようにしたいです。
‐さまざまな施策を社員からボトムアップで実現されているんですね。社員がチャレンジしやすい風土を感じます
(三田)会社が社員のチャレンジを応援する風土があります。例えば、キャリアデザインシートを活用して、将来のことを含めて自分の目指すキャリアについて上司と相談する機会があります。会社は社員をちゃんと見ているので、制度を伝えるだけではなく、コミュニケーションを大事にして、人に重きを置いています。上司に対してもフォローを行い、マネジメントのお困りごとがあれば相談しています。
これから両立支援をしていきたいと考える企業にメッセージ
今回を記事を読まれている、これから両立支援をしていきたいと感がる企業の方へ、メッセージをください
(三田)完璧を目指すのではなく、まず始めることが大切です。がんに罹患した社員を特別視せず、様々な背景を持つ社員の皆さんが働きやすくなることを目指していただきたいです。やろうとしていることが、出来ないはずはないです。その解決策は他に何かあるはずだと考えてみてください。
(亀田)必要に応じて適切な方につなぐことが大事です。社員や会社の担当だけでは解決できない時は、別の視点を入れたほうが良い解決策につながる場合があります。固まった考えにとらわれず、適切な関係者と連携し、専門家の知識や最新の情報を入れて、一番いい形の解決方法につなげていっていただきたいです。
(末成)社員の方にとって何が壁になっているか、そのニーズを聞いて、会社として歩み寄れるところを代替案等を含め一つずつ検討していく事が大切だと思います。
他の会社様で壁にぶつかっている方がいらっしゃれば、私たちにいつでもご連絡いただければ一緒に考えていくことはできると思います。
‐社員の一人ひとりに寄り添った支援と、チャレンジを応援する社風がとても印象的でした。熱意を持ったがん両立支援者が社員の困りごとに誠実に応えることで、成長のPDCAサイクルがうまく回っていると感じました。今後とも御社のご発展をお祈りしております。本日はどうもありがとうございました。
2024年4月16日
聞き手:がんと働く応援団 吉田ゆり、齋藤宏晃
文 章:齋藤宏晃
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