株式会社松下産業様 両立支援に対する取り組み

GHO連載企画 治療と仕事の両立支援に取り組む企業様インタビュー

高齢化社会・女性の社会進出・医療技術の進歩・定年制度の見直し等

企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。

企業を支える社員が安心して、ライフイベントと仕事の両立を図れる環境を提供する事で

経営陣と共に、企業を成長させる一員として社員が独自のスキルを使い活躍してくれることでしょう。

そこで先陣をきって両立支援の取り組みを行っている、企業様の事例からヒントを得られるようインタビューし、ご紹介していきます。



お話を伺った方:



株式会社松下産業

代表取締役社長

松下和正様 






株式会社松下産業

ヒューマンリソースセンター長

齋藤朋子様





目次:

・松下社長の社会に伝えたい事

・松下産業の「ヒューマンリソースセンター」とは

・部門長を巻き込み社内の理解を得る

・治療と仕事の両立は「普通の事」と経験者から学ぶ

・社員の声に耳を傾け、制度設計に活かす

・仕事と治療を両立したケースの紹介

・第2の患者と言われる家族にも寄り添う

・担当者に対するメッセージ

・経営者に対してのメッセージ


松下社長の社会に伝えたい事

(松下社長)がん治療と仕事の両立は難しい事ではありません。大切なのは「トップの決断」と「出来ないと思わない事」。実際あらゆることができます。がんから社員の生活を守る為には、がん検診やGLTD(団体長期所得補償保険)加入等があります。検診料と保険料の合計は年間1人4万円くらいです。がん検診を公的なものと重複しないように利用したらもっと金額は下げられるかもしれません。社員が安心して働けるための経費と考えたら安いですよね。中小企業は特に新規採用が難しいなら、今いる人を大切にすることが重要。がんで言うと、いまだにがん相談支援センターの存在を知らない人が多いです。標準治療が何かを知らない人もいる。病気になっても、確実に医療技術は良くなってきている。そのような前向きな情報を社員や関係者に共有し、不必要な不安をなくす事の重要性を感じています。今の正しい知識を得て、悪い事もいい事も情報開示して、社員を啓発していきたいですね。


松下産業の「ヒューマンリソースセンター」とは


―導入した経緯を教えてください

(松下社長)以前、当社でもメンタルヘルス不調者の発生や、有給休暇消化率の低さなど課題が多くありましたが、縦割りセクション制度が一因になり、なかなか解決に至っていませんでした。しかし、東京都文京区の「ワークライフバランス推進認定企業」に選ばれたことがきっかけで、取締役会直下に「ヒューマンリソースセンター」を新設し、相談窓口を一つにして社員の困りごとを解決しやすくすることにしました。


―導入や運用は難しくありませんでしたか。


(松下社長)ヒューマンリソースセンターを作るのは全然大変ではありませんでした。例えば、がんという病気は大きなファクターではありますが、社員の生活はそれ以外のライフイベントすべてが密接に絡み合っています。私たちが目指したのはホテルのコンシェルジュのような「相談すると正解に近いものを出してくれる部署」。それが私たちのヒューマンリソースセンターです。困った時に社内に相談できる窓口があるとだいぶ社員の気分は変わると思います。


(齋藤センター長)2013年ヒューマンリソースセンター立ち上げのきっかけは松下社長の鶴の一言「ワンストップ相談窓口を作る!」です。そして、私は「社員の相談事案を解決するために社内外のリソースを増やしたい」と話し、社長が登壇する各種講演会やセミナーに同行するようになりました。そこで医師、研究者や、がんサバイバー等といった色々な分野や立場の方と出会い、外部リソースを増やしていきました。



―産業医の先生との連携はどうされていますか


(松下社長)当社では、社員が産業医や産業保健師と定期的に会い、気軽に相談できる仕組みを作っています。産業医は実際に現場に行き、現場勤務の実際を確認してもらっています。産業保健師による健康相談はとても人気がありますね。

(齋藤センター長)産業医の先生は連絡するとすぐ対応してくださり、知識も豊富なのでいつも助けていただいています。産業保健師さんは産業医の先生ともよく連携をとってくださり、良いトライアングルが出来ていると思います。実は、産業保健師さんとの出会いは某セミナーで隣同士になった時に、「この方は当社のカラーに合う!」と確信し、社長に相談、安衛法による医師による面接指導制度の補助面談を主に請け負っていただいています。こうして、当社の産業保健体制が強化されていきました。2人は私にとって最高のサポーターです。


―実際社員の相談対応を始めた時どうでしたか


(齋藤センター長)実は入社してすぐ、採用に携わった中途社員が入社後1ヵ月で辞めました。その際「もっと齋藤さんは寄り添ってくれると思っていました」という言葉を残していきました。その言葉で自分の役割を再認識し一念発起して、キャリアカウンセリングの資格を取得しました。がんの社員やご家族の苦しみに触れる事はもちろんの事、様々な相談に乗る上でその知識・経験が役に立っていると思います。


―現在の運営体制を教えてください


現在は3人体制で運営しています。1人は技術者で生産部門の技術研修を担当しています。もう1人は私と同じくキャリアコンサルタントの資格を持った女性で日々頑張ってくれています。そして私のスーパーバイザーは社長ですね。


部門長を巻き込み社内の理解を得る


―ヒューマンリソースセンターに対する社員の理解は得られましたか


(松下社長)こうした取組みは「“社長が言っているから”だとうまくいかない」と思い、最初は、理解のある役員をセンター長にして、生産部門の部門長もメンバーとして招集しました。「世の中の流れはこうですよ。」としっかり部門長たちに伝え、1週間に1度話す場を設け、情報共有し、勉強を続けました。立場を与えて、ちゃんと話していくと自らの考えも変わっていくので反発はそこまでありませんでした。そして一定の理解を得られたところで、今の齋藤センター長を中心とした体制に移行させ、運営を始めました。

かつては、若い社員から上司の厳しい指導についていけないという相談が多くありました。そこで、過去の離職理由のデータを分析し可視化し、部下を持つ社員には「現場をうまくまとめる以上にどれだけ育てたかを重視している」という事を明確に伝えました。建設業界で良い人材をコンスタントに採用していくのはとても大変な事なんです。やる気のある若手人材を潰す存在がいかに悪いかを伝え、潰すなら降格する、部下をつけない。そうしたメッセージとともに、当社が目指すものを学んでもらいました。


―役員は男性が多かったのでしょうか


(松下社長)いえ、女性もおりました。管理部門は特に優秀な女性管理職たちが揃っていました。当社は建設会社で、もともと男性の多い職場でしたが、今はバックオフィスにとどまらず、建築・土木の現場で活躍している女性が増えてきています。少し前まで女性が現場に入る事に難色を示していた所長も、今では「新入社員を配属するなら女性で!」というオーダーが来るくらい女性社員に対する偏見はないと言ってもよいほどです。


―ものづくりは男の世界というのはもう古いイメージなんですね


(松下社長)はい。こうした現場で男女関係ない採用を始めたのは海上自衛隊の哨戒機P-3Cに搭乗したのがきっかけです。女性キャプテンが多くの男性部下を指揮していました。今では護衛艦の艦長を女性が務める時代です。活躍したい気持ちがあれば性差は関係ないですね。それは病気であっても同じです。こうした個性豊かなメンバーが共に働くのが今の時代の「当たり前」だと思います。


治療と仕事の両立は「普通の事」と経験者から学ぶ


―実際様々な個性を持った人を現場で受け入れていく事は難しくないですか

(松下社長)私たちは、ダイバーシティ企業を自然体でやっていると思います。多くの中小企業の経営者は「働いてくれる人が足りない。病気の人を働かせるわけにはいかない、でも人が採用できない」とおっしゃる。しかし、出来ないと思っていた事をやってみると想像していたよりハードルが低く、普通の事だと気がつくと思います。誰もが一緒に仕事をしたいと熱望する著名な建築家の仕事に携わり、現場では男女差なく、ライフイベントと仕事も両立できる松下産業は建設業界では一つのブランドになったかもしれません。それは社員のプライドにもなっています。多様な目標を持った社員がいて、私はそんな様々な視点・特技・個性を持った社員が全員活躍できるフィールドを持つ会社にさらに成長させていきたいと思っています。


―御社では初めて社員ががんになった際どのように対応しましたか


(松下社長)当社は社歴61年です。社員数が少ない時から病気と仕事を両立する社員が存在していました。がんは(私のイメージ)10年前くらいから共存できる病気です。当社で初めてがんになった社員は「抗がん剤治療しながら家にいても気が滅入るから働きたい」と言ってくれました。私は「いいよ、いいよ!」と受け入れました。そうした経験の積み重ねが今につながっています。


―昔からカミングアウトできる環境だったんですね


(松下社長)そうですね。がんだけでなく脳梗塞や怪我など気兼ねなく相談できる会社です。ヒューマンリソースセンターが出来てからは、さらにいろんな相談が出来るような環境になりました。

(齋藤センター長)ある社員が脳腫瘍ステージ4を発症しました。サイボウズのガルーンという共有システムを利用し、自分の治療計画、業務報告を日々共有しながら仕事を続けてくれました。社長はもちろんの事、周囲の人が励ましのコメントと共に返信していました。関係部署の人達にも情報が共有されていたので、「治療と仕事の両立は出来るんだ」という事を、彼の発信から学んでくれたのではないかと思います。


社員の声に耳を傾け、制度設計に活かす


―社長は社内にどのようにしてメッセージを発信していますか


(齋藤センター長)当社では様々な機会をうまく使い、会社、社長のメッセージを社員やご家族に伝えています。例えば、賞与支給時や各種書類を送る際に家族宛てのお手紙を入れたり、イントラネットで発信したり、直接伝えたり。会社の姿勢を伝える事で、以前より社員もアンテナを張り、社員や家族の健康を守る取組みに協力してくれるようになりました。


―社員の協力とはどういう事でしょうか


(齋藤センター長)以前は問題が起きても現場だけでなんとかしようとして、ヒューマンリソースセンターからのアクションが後手に回り、離職を防げなかった事もありました。しかし、今は多くの社員が周囲や自分自身の事で心配事があると「ポン!」と情報を投げてくれるようになりました。周囲の人々が私の情報源、アンテナになってくれています。このような状態になるまでには相当時間を要しましたが、焦らず実績を作っていった事で少しずつ周囲からの信頼を得られたように感じます。


―職人気質な方の声を拾い、ケアするのは難しくないですか


(齋藤センター長)参加型の研修を取り入れています。社内だけでやると恥ずかしいのか活発にならない事もありますので、時には外部に派遣するなど、色々工夫しながら行っています。あとは、当社の仕組みとして、賞与を支給する時期に社員と役員、部門長が面談しています。その際、全社員に事前シートを提出してもらっています。そのシートには仕事の事だけでなく、フィナンシャルプラン、育児や介護等、幅広く社員を取り巻くライフイベントについて書いてもらっています。全社員240名を30分面談しますので、社長含め面談者全員が、しっかり事前シートを読み込んで面談に臨んでいます。


―社員一人一人を理解する真摯な取り組み素晴らしいですね


(齋藤センター長)一部プライベートを開示したくないという人もいますが、それはそれで

本人の選択なので受け入れます。しかし、会社のスタンスは理解してもらうようにしています。この面接時に必要な合理的配慮を伝えてくる社員もいます。我々は受け取った希望をすべて関係者と共に面談後、検討会議で議論し、本人にフィードバックします。その中で良いものは制度化しています。


―実態に合った制度が出来ますね。