がん防災マニュアル:制作秘話③  校正担当 青木和子さん

最終更新: 7月14日

このシリーズはがん防災マニュアルの制作に携わったメンバーのご紹介と思い入れについてご紹介するシリーズです。第三回目は校正担当の青木さんです。がん防災マニュアルの文章を読みやすくしてくださいました。そしてがんは「怖くて、話してはいけない事」と思っていた青木さんが、プロジェクトを通してかわったこととは!?



〇一文字でも少なく。チームと話し合いながら踏み込んだ校正をし、正確性とわかりやすさを追求

野北(以下、N):今回、ご紹介したいのは、がん防災マニュアルをとっても読みやすくしていただいた校正担当の青木和子さんです。まずは、青木さんご自身のことについてお知らせいただけますか?


青木 和子さん

青木さん(以下、A):校正者としては、まだ駆け出しです。一人息子を出産後、社会と関わりを持ちたいと思いつつ前職がピアノ講師でメインの稼働時間が夕方から夜の時間なので、生活時間帯を仕事に充てるのは難しい状況でした。

昨年息子が2歳迎えてからは少し時間ができたものの、どこかで働けるほどの時間もなかったのでまずは自分に投資する気持ちで校正を学ぼうと決めました。

通信講座で文科省認定の校正講座を半年かけて受講した後は、個人向けの校正(小説の応募作品、エントリーシートなど)や法人向け(プレスリリースやメール文面)でのお仕事にご縁を頂き研さんを積んでいます。



N:そうなんですね。青木さんの校正はきめ細かくてとても駆け出しとは思えませんでした

青木さんは代表理事の吉田の知り合いで、お声がけさせていただいて、原稿がだいたい固まったところでご参加いただいたのですよね。原稿の第一印象はどうでしたか?


A:「テーマは重いのに、図なども多くて分かりやすくなりそう!」でした。

私は罹患者ではないので専門的な情報に付いていけるか心配でしたが、きちんと知らない方の立場に立った原稿で、初校では読み物として楽しく学ばせていただきました。本音を言ってしまえば「啓蒙」活動なんだろうな、という一種の偏見と言うか警戒感があったのですが、実際には説教臭い感じは一つもなかったんです。


N:そういう警戒感があったとは初めて伺いました(笑)。校正にあたり気を付けたことはありますか?

A:とにかく校正の基本通り原文尊重。ただ、内容盛りだくさんの冊子(悪く言えば字で真っ黒けの原稿だな)、という状態ではあったので、メリハリのつけ方が重要でしたが、このプロジェクトでは、皆さんの考えを確認したり、新たなアイデアや意見をもらいながら進めることができて楽しかったです。こんな進め方は初めてだったので良い刺激になりました。

校正作業の様子:細いペンで丁寧に

:がん防災マニュアルは、読みやすいというご意見をいただくことが多いんです。これは、デザイナーの望月さんのお力はもちろんなのですが、実は、青木さんのお力も大きいんです。私が書いた原文に青木さんがちょっと手を入れると、ものすごくすっきりした読みやすい文章になるのです。目ウロコだらけでした。


A:校正は元々マイナスの状態(誤字脱字など)をゼロに戻すお仕事ですが、今回は編集の領域ともいえる文章の最適化にチャレンジしました。

同じ伝わり方なら一字でも少なくという気持ちでばっさりカットしましたが、結局デザイナーの望月さんがうまくレイアウトして下さったところも大きく、途中経過で共有してくださるPDFデータでも美しい仕上がりに驚いていました。

また内容は知れば知るほど、確かな情報に下支えされた、建築で言えば土台のしっかりした情報誌だと分かり、進めるほどに喜びが増しました。



N:一文字でも少なく、が重なると読みやすさが増すんですよね。例をご紹介しますね。

P.6 原文「がんは現役世代にはどういう関係があるの?」→校正後「なぜ現役世代に関係するの?」

がん防災マニュアル、6ページの図

P.13「対象となっていないこともあるので、」→「対象外となる場合もあり、」

P.25 「話して相談したいとき」「ネットで情報を検索したいとき」→「相談したいとき」「情報を検索したいとき」



他にもここではご紹介すると長くなってしまうので割愛しますが、冗長な文章を潔くばっさり切ってくださって、プロジェクトメンバーからは称賛の声が出ましたよねー。この意味を変えず簡潔に伝えることって難しいと思うのですが、どうやっているのですか?


A:そうですね、文章は直感で「この一文はもっと短く出来るかも!」と感じます。

理由は、考えたことが無かったですが、しいて言えば『詩』が理想だからかもしれません。

短文をこれ以上ない形に練られていて、音読しても美しいですし、漢字を仮名に開く部分も考え抜かれていますよね。

だから長文に疲れると、茨木のり子さんや長田弘さんの詩などを読みます。


キャッチコピーって短いからこそ、人の心を『キャッチ』するんですよね。校正を進めたあとに、表現が遠回りしていないかを必ず確認します。

(現にこの原稿も何度か見直しながら、ずいぶん語順や言い回しを変えています。)

ただ、押川先生のように「たとえ」で理解を助けるときには言葉を惜しみ過ぎないように、バランスに気を付けています。でも、まだまだ勉強中です‥‥。



〇がんが身近でなかったからこそ「初めて」の方の目線を失わずに

N:こだわったポイントなどありますか?

A:このプロジェクトはまわりのメンバーが前向きに信頼して下さっていたので、思い切って変更の提案をしてみました。

例えば、P.7の押川先生吹き出しですが、通常は一文のセリフとして口語体にするので箇条書きにしようとは思わないですが、提案してみたところかなり分かりやすくなったのではと思います。

また、私が微力ながら力になったかなというのは精密検査の件です。自分自身ががんに対して不安になった時期に検診しようにも、クリニック探しから迷った経験が活かせたと思います。不安で検査した当時にはその行動が合っているのか自信も無くて、しかも結果が空振りで終わったことを恥じてもいたので‥‥。今は自信を持って言えます、「迷う時にはまず検査!」。コロナ禍でもこの姿勢は大切にします。


そんなこんなで、いつも初めて読む方の気持ちで「なぜ?」を大事に校正しました。時にメンバーに対して失礼なほどの質問もあったのではと思うのですが、気になる事はすべてぶつけて分かりやすい冊子を目指しました。


N:そうなんですよね。青木さんは他のメンバーと違い、身近でがんの体験がない方としても貴重な意見を出していただきました。

栄養士の資格が生きたご提案

例えば、p.8の野菜や果物を一日400gという説明があるのですが、400gが直感でわからない、というご指摘をいただきました。


A:そうなんです。栄養士の資格を持っているので少し気になり、現役の管理栄養士の確認を得て分かりやすい表記「野菜の手計り」をご提案したところ望月さんに見やすいイラストにして頂けました。


〇がんは怖いもので、話題にすること自体がタブーだとおもっていた。知ろうとする姿勢が大事

N:実際に制作にかかわって、がんに対する意識がかわったところありますか?

A:端的に言えば、検査への意識が高まり、保険の見直しをしようと思ったことです。一方で「極端な恐れ」は減りました。それが一番大きな変化かもしれませんね。

サバイバーの方が多かったのでなかなか言えなかったですが、やっぱりがんは「不治の病」というイメージと恐怖感はどこかにあって‥‥。でも実際には、罹患して治療して、治りきらずとも今まで通り働けるし付き合っていけるもの、という考えが無知な私には新鮮でした。また、罹る率の高さには驚き、がん防災の必要性をひしひしと感じました。


新たにできた心構えとしては、一つずつ勘所が理解できれば現代の医療を頼りにきちんと医師とコミュニケーションをとって、信頼できる情報で周りをきちんと固めて、治療でベストを尽くすだけだなという‥‥心の中に一本の柱が立ったような気持ちです。


N:そうですよね。できれば考えたくないというのが皆さんの本音だと思います。

A:そうですね。やっぱり知らなかったら、今まで通り怖いイメージのままだったと思います。一段階、病気に対しての気持ちが強くなったという感じでしょうか。

実際には、そんなにあっさりとは言えない状況や闘病生活がこれから待っているのかもしれませんが、まずはいつも自分の体を検査でチェックする事から始めます。


そうだ、それともう一つ。

がんって「話題にすること自体がタブー」と言う意識も変わりました。子どもの時から誰かしらがんに罹患した人は身近にいらして、それを隠したい人や、医師からの告知を本人にしなかったという過去の話も半端に知っていて「話してはならないこと」という古いイメージがありました。

本がいっぱいの青木さんの仕事場

いまだに罹った方に「今はどうなの?」と聞くのには勇気が要りますが、歩み寄ると色々教えてくれるんですよね。今回のメンバーのように辛い部分もオープンにしてくださってこそ分かる、身につまされる思いも多くありました。私に足りなかったのは、「知ろうという姿勢」だけだったんですよね。

がんを理解しよう、と思い始めたことで子どもにはどう教育しようか、若くて自分ごとには感じていない友人たちにはどう伝えれば良いのか‥‥視野が広がりはじめています。



N:これからがん防災マニュアルを手に取られる方にメッセージをお願いします。

A:パッと見ただけで気になる言葉が目に飛び込むよう頑張りました。また裏付けの取れた信頼できる情報が詰まっています。

「なんだかよく分からないけど、がんが怖い」という以前の私のような方に、ぜひご一読いただきたいです。きっと他の防災冊子のように「備え」がみつかると思います。


N:最後に何かコメントあればお願いいたします。

A:今5月初旬で少し冷たい風が吹く日もあります。3歳の息子によかれと思い、上着を着せようとしたら「要らない!」と強く断られ、その後、彼はクシャミをして鼻水をたらしていました。この小さなエピソードで、がん防災マニュアルの事を思い出しました。

それは「必要とするタイミングじゃ遅い」こともある、という事です。息子には悪気が無いあたりも、以前の私と同じです。いつも柔らかい姿勢で正しい情報を収集していきたいです。

また、プロジェクトを通じて思わぬ形で成長させていただきメンバーの皆さまや冊子の読者の皆様への感謝に尽きます。これからも利他的な観点を大切にお仕事ができればと願う私の、記念すべきスタート地点となりました。ありがとうございました。


N:こちらこそ青木さんにご参画いただきよいものができたので感謝です。ありがとうございました。





日にち:2021 年5 月

語り=青木 和子

取材=野北 まどか

文 =青木 和子(GHOボランティア)




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