生活とがんと私 Vol.22 山元 浩昭さん
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- 6 日前
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長寿大国日本。生涯を通して2人に1人ががんを経験すると言われ
そのうち3人に1人は就労している年齢でがんと診断されています。
いざ自分がなった時、そして周囲の誰かがなった時
慌てず対処するためには、経験者のお話は、ご自身や大切な人が
その立場になった場合、どう対処するべきかを考える貴重な機会になります。
"がん=働けない(或いは、離職・退職)"ではなく、それぞれに工夫されている
体験談をお届けしていきます。
インタビュイープロフィール

お名前:山元浩昭さん
職 業:会社員
がん腫:すい臓がん
ステージ:ステージⅢ
治療期間:2023年~現在に至るまで
治療内容:科学療法
副作用:だるさ, むくみ, 痺れ, 下痢,
喉の渇き, しびれ, 脱毛
治療期間:入院2回、通院治療
就労状況:入院以外休まず勤務
企業規模:大企業
利用した企業制度:年次有給休暇, 半日単位の年次有給休暇, 在宅勤務
利用した公的制度:限度額適用認定, 健康保険組合の付加サービス
テレビの第一線で30数年、プロデューサーとして番組制作に情熱を注いできた。2019年にNHKエンタープライズへ移籍し、日々全国を飛び回る生活をしている中体調に異変がおきがんと仕事の両立をする生活が始まった。
目次
発覚前の兆候と受診のきっかけ
GHO: 本日はありがとうございます。がんの発覚から2年、今振り返ると、診断前には何か兆候はあったのでしょうか。
山元氏: 移籍して4年目、コロナ禍が明け始めた頃でした。とにかく忙しく、出張も多かった。そのせいだと思い込んでいたのですが、今思えばサインはいくつもありました。まず、1年で体重が90kgから70kgまで激減した。食欲はあるのに、です。下痢も止まらなくなりました。大好きだったお酒が、ただ苦いだけで全く美味しくなくなったのも、おかしかったですね。
GHO: 病院にはすぐに行かれたのですか?
山元氏: それが…。多くの現役世代がそうだと思うのですが、「出来るだけ悪いことは考えたくない」。目の前の仕事に集中したいから、忙しいのを言い訳にして自分の体調を直視しませんでした。胃カメラや大腸の内視鏡検査も受けましたが、異常なし。それで一度、「手は尽くした」と安心しきってしまったんです。
GHO: 何が決定的な受診のきっかけに?
山元氏: 会社の先輩の一言です。久しぶりに社内で会った私を見るなり、真顔で「お前、やばいぞ。その痩せ方はおかしい」と。笑ってごまかそうとしたんですが、あまりに真剣な様子に、ハッとさせられました。その先輩が医療に詳しい別の先輩に繋いでくれ、大学病院で初めて精密検査を受けることになったんです。フリーランスだったら、家族以外に誰も気づいてくれなかったかもしれない。毎日会うわけでなくても、仲間の声が届く。組織の中にいることの良さを、あの時ほど感じたことはありません。
確定診断までの長い道のり
GHO: そして、診断に至るわけですね。
山元氏: いえ、そこからが長かった。大学病院でもすぐには分からず、「胆管が怪しい」と言われ、手術ができる病院へ。10日間入院して超音波内視鏡検査をしましたが、結果は「がんではない」。ホッとして、退院後にお酒を飲んだら、やっぱり美味しくない。それを病院に伝えたら「すい臓がんの疑いがある」と…。そこから再入院し、今度は膵臓を重点的に調べました。それでも診断は「もやもやがんとしか言えない」。腫瘍が見えるタイプではなく、がん細胞がもやもやと広がっている、と。結局、確定診断が出るまで、何週間も“もやもや”した状態が続きました。
がん告知と「仕事」への思い
GHO: 告知の瞬間は、どのような心境でしたか。
山元氏: がんの告知というと、ドラマのように重々しいものを想像しますが、実際は「やっぱり確定します」と、風邪やインフルエンザのように淡々と告げられました。驚きましたね。同期をすい臓がんで亡くしていたので、難治性のがんだという知識はありました。でも、不思議と現実感がなかった。「自分のことなのかな」と、心理的な防御反応が働いたんだと思います。涙も出ませんでした。それより先に頭をよぎったのは、「仕事」でした。「この企画、諦めなきゃいけないのか」「仕事を続けられなくなるのは嫌だ」。人生の大半を仕事のことばかり考えてきたんだなと、その時改めて思いましたね。
GHO: 治療と仕事の両立は、その瞬間から大きなテーマになったのですね。
山元氏: まさに。だから、抗がん剤治療が通院でできると聞いた時は、本当に嬉しかった。入院生活には飽き飽きしていましたから。「家に帰れるなら、仕事ができる」と。コロナ禍を経て在宅ワークも浸透していましたし、しんどくても家で横になりながらなら何とかなる、と。副作用のことは、考えが甘くて何も想像していませんでした。
「治療と仕事の両立」という悪戦苦闘
GHO: 実際に始まった治療と、仕事の両立はいかがでしたか。

山元氏: 悪戦苦闘、その一言です。最初の2週間は変化がなかったので「これなら大丈夫」と高を括っていましたが、3回目から髪がごそっと抜け、足の激しい痺れ、そして耐え難い腹部の圧迫感。見た目はともかく、痺れと立ちくらみはきつかった。家の中で意識を失って倒れ、顎を骨折したこともあります。救急車で2度も運ばれました。それでも、幸いなことに吐き気はなく、食事も睡眠もとれた。「食べられる、眠れる」という良いことに目を向けて、何とか乗り切ろうと。主治医には「痛いのは嫌だ」「長期入院は避けたい」「妻に負担をかけたくない」と伝え、「低空飛行でもいいから飛び続けたい」とお願いしました。低空飛行は、墜落とは違いますから。
自己開示への転換点
GHO: その状況で、職場にはどのように?
山元氏: しばらくは何も言いませんでした。裁量性の高い職場なので、言わなくても仕事は回りますし、言われた上司がどう反応していいか困るだろう、と。でも、治療を続ける中で考えが変わりました。これまでジャーナリストとして、病気や困難な状況にある人々を取材してきた自分が、いざ当事者になった時に隠すのは違うんじゃないか、と。取材させてもらった人たちに叱られると思いました。
GHO: それが「自己開示」への転換点になった。
山元氏: そうです。セカンドオピニオン先の先生に「仕事、ガンガンやりなさい。療養に専念すると、一日中がんのことばかり考えて負けちゃうよ」と言われたのも大きかった。マギーズ東京や患者会で、自分より遥かに大変な状況でも治療と仕事、育児家事等との両立をパワフルにこなしている人たちと出会い、衝撃を受けました。そこで気づいたんです。自分は「人と話すことで精神的に楽になる」人間なのだと。話すことが、自分にとっての「薬」になるんだ、と。
『がんですけど“普通の人です”宣言』
GHO: そして、社内報の『がんですけど“普通の人です”宣言』に繋がるのですね。
山元氏: ええ。がんになったけれど、自分という人間のすべてが「がん」になったわけじゃない。キャリアもやりたいこともある。だからがんだからといって特別扱いせず、普通の人の属性で接してほしい。そう書いたら、思わぬ反響がありました。「どう接していいか分からなかった」という声が多く、伝えることの重要性を痛感しました。周りが普通に接してくれることが、本人にとっては一番楽なんです。妻が今も全く変わらず、時に不機嫌だったりする(笑)。その「普通」が、本当にありがたい。
がんと共に働くすべての人へ
GHO: 最後に、今まさに治療と仕事の両立に悩む方々、そして彼らを支える企業へメッセージをお願いします。
山元氏: まず、り患されたご本人へ。「がんと働く応援団」という団体がありますが、本当にその通りで、可能であれば仕事は続けた方がいい。収入のためだけでなく、社会との繋がりを保ち、がんのことばかり考えずに済むメンタルを維持するために。そして企業の方々へ。仕事をする意思を示した社員を、特別扱いしないでほしい。普通の社員と同じように接してほしいんです。もちろん、矛盾するようですが、通院や体調に関する配慮など、本人の希望には可能な範囲で耳を傾けていただきたい。それは会社にとって、多様な人材が活躍するためのトレーニングにもなるはずです。そして、どうか時々、優しい言葉をかけてあげてください。「大丈夫?」と深刻に聞くのではなく、「今日は顔色いいね」「どう?」と、関心を持っているというメッセージを送るだけで、患者は本当に救われます。それは、お金のかからない、最高のサポートですから。

GHO:山元さんのお話は、ピンチをチャンスに変え、現代社会における「働き方」そして「生き方」そのものへの深い問いかけとして、胸に響きました。仕事が人生の哲学に影響し、山元さんのたどり着いた「兼業患者」という生き方につながったのだということがよくわかるお話でした。貴重なお話しありがとうございました。
2025年7月1日
語り=山元浩昭氏
取材=がんと働く応援団 財目 かおり
文 =がんと働く応援団 吉田 ゆり
写真=山元浩昭さん提供
※本記事はがんを経験された個人の方のお話であり、治療等の条件や判断は1人1人異なります。全ての方にあてはまるものではありません。
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