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生活とがんと私 Vol.21 䕃山 秀一さん     株式会社ロイヤルホテル取締役会長

長寿大国日本。生涯を通して2人に1人ががんを経験すると言われ

そのうち3人に1人は就労している年齢でがんを見つけています。

いざ自分がなった時、そして周囲の誰かがなった時

慌てず対処するためには、経験者の話に耳を傾けるのが一番です。

“がん=死”というイメージを払拭する為に様々な体験談をお届けしていきます。


インタビュイープロフィール


秋池優子さん

お名前:䕃山 秀一さん

職業:株式会社ロイヤルホテル 

   取締役会長 

がん種:悪性リンパ種

治療内容:通院での抗がん剤治療


1956年大阪府生まれ。1979年神戸大学卒業。株式会社住友銀行(現・三井住友銀行)に入り、関西の法人営業を手掛けた。2015年副会長。2015年~2017年に関西経済同友会代表幹事を務め、2017年より株式会社ロイヤルホテル代表取締役社長に就任。2023年より現職。2025年より日本ホテル協会会長として、日本のホテル産業の発展と観光立国の実現に尽力している。



目次




GHO: 本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。䕃山会長におかれましては、2023年に悪性リンパ腫と診断され、治療を乗り越えられたご経験をお持ちです。そのご経験と、経営者としてのがん治療と仕事の両立支援について、ぜひお話を伺えればと存じます。


䕃山会長: こちらこそ、ありがとうございます。私の経験が少しでもどなたかのお役に立てれば幸いです。


突然のがん宣告:「死ぬやんか」という絶望からのスタート


悪性リンパ腫と診断された時の率直な心境をお聞かせいただけますでしょうか。


それはもう、「死ぬやんか」「抗がん剤治療しかない」という言葉が頭の中を駆け巡りました。とても強い抗がん剤を入れなければならない、治らないかもしれないという恐怖、絶望的な気持ちでしたね。悪性リンパ腫という名前の響きも重く、本当に「駄目だな」というところからのスタートでした。


‐大変な衝撃だったことと拝察いたします。そのような中で、まずご家族にはどのようにお伝えになったのですか?


はい、まず家族にカミングアウトしました。私は年齢も高く、子供たちも独立して夫婦二人の生活でしたから、「早めに(逝くことに)なるかもしれない、ごめんね」と妻には伝えました。


‐ご家族への告白と同時に、当時は社長でいらっしゃったわけですが、会社のことについてはどのようなお考えがよぎりましたか?


それが…家族からは「家族のことより会社の事ばかり考えて!」と怒られたくらいでして

(苦笑)。当時は6年間務めた社長職を退き、会長就任を発表したばかりのタイミングでした。それだけに、「がんだから社長を譲ったと言われるのではないか」と、それが気になって仕方がなかった。上場会社ですから、社長に不慮の事態があった場合の後継者選定は非常に重要です。その点では、後継者が決まっていたのは不幸中の幸いだったなとは思いました。


希望の光:標準治療と早期発見の幸運


-病名が分かり、抗がん剤治療が決まった後、治療法についてはどのように情報を得て、決断されたのでしょうか。


悪性リンパ腫と一口に言っても何十種類もあると聞いて驚きました。例えば池江璃花子さんが骨髄移植を併用して治癒されたようなケースとは異なり、私は比較的症例が多く標準治療が確立されているタイプでした。さらに、診断の5年前に分子標的薬という、がん細胞に直接効く薬が開発され、寛解率が7~8割と飛躍的に高くなっていると医師から説明を受けました。医師の感覚としてはライトな感じでしたが、私自身はステージ3でしたし、やはり「死ぬ」というイメージが強かったです。


-発見の経緯も少し特殊だったと伺いました。


はい、インプラント治療をしようとしたところ、歯科で炎症を指摘されまして。念のため病院で造影CTを撮ったところ、扁桃腺の腫れを見つけてくださったんです。非常に早い段階で見つかったこと、そして当時67歳でしたが体力があったことも幸いし、医師からは「治るでしょう」と言われました。そうは言っても、内心は不安でいっぱいでした。


-治療法として抗がん剤と言われた時、ご自身で情報を調べる中で、どのような葛藤がありましたか?


ネットで調べると、悲惨な話や悲しい話が多い。良くなった人の話は少なく、治るという前提で探してもなかなか見つからない。苦しい闘病ブログはたくさんあって、それを見てしまう。すると民間療法や、「こういう人が治った」というような高額な自由診療の話が出てくるんですね。「命には代えられない」と思い、ふらふらとそちらにいきそうになりました。しかし、きわめて怪しいと感じましたし、幸い主治医と話して標準治療についての正しい知識を得ることが出来たので、「標準治療が確立されているなら、それで行こう」と決断できました。家族からは「それでいいのか」と心配の声もあり、衝突とまではいきませんが、意見の相違はありましたね。


社長としてのカミングアウトと株主総会という試練


-社長として治療に臨むにあたり、会社にはどのように伝え、業務を調整されたのでしょうか。


まず全役員に治療について話し、在宅勤務になるかもしれないと伝えました。「何かあれば気にしないで連絡してほしい」とも。5月から治療が始まり、9月までの4ヶ月間、何とかごまかしごまかしやっていくつもりでした。


-そして、株主総会という大きなイベントがあったのですね。


ええ、6月下旬の株主総会で議長をしなければならなかったのが最大のネックでした。3回目の抗がん剤治療の直前でしたが、2回目までは幸い体調の大きな変化も無く、髪も少し抜けた程度でした。しかし3回目も同じだという保証はなく、議長を務められるのか、本当に不安でした。しかし、前日のリハーサルで「やれる」と覚悟を決めました。社長として6年間議長を務めてきましたから、その責任もありましたしね。


-当日はどのように乗り越えられたのですか?


当初は株主総会の冒頭で、カミングアウトするつもりでした。しかし会社の議題ではなく、私事に質問が集中してしまうことは避けたく、結局はカミングアウトせずに議事を進行しました。上場会社の社長という立場だった為世間に公表したらどうなるか、社長個人のリスクが会社に与える影響なども十分に考慮する必要があり、非常に気を使いましたね。


治療と仕事の両立:社長業を続けながら治療と副作用と付き合う


-実際の抗がん剤治療の副作用はどのようなものでしたか?


主なものは吐き気、脱毛、そして白血球の減少による感染ですね。吐き気に対しては、事前に吐き気止めを打つことで対応できました。「食事が摂れなくなると体力が落ちる。しかし、吐き気止めは色々種類もあるから辛かったらすぐに申し出るように」と主治医からは言われていました。脱毛もありました。マイナス30度の冷却キャップで脱毛を軽減する方法もあるそうですが「ずっとやり続ける必要がある」と聞き、私は使用しませんでした。白血球の減少に対しては、毎回注射を打ちました。これは若干高額で、お金がかかりましたね。これら3つの副作用も、多様な対処法があり、その人の体力的な問題にもよりますが、現役世代なら乗り越えられるのではないかと感じました。


-治療は通院で行われたのですね。


はい、通院で治療を受けました。通院用のベッドが28床あり、それが1日に4回転するんです。つまり、100人以上もの方が毎日通院で治療を受けている。ベッドの空きを待つ時間の方が長いくらいでした。そこにいるのは全員ががん患者さんです。「1人減り2人減りしていくのを見ると精神的に辛くないのか」と看護師さんに聞いたこともあります。すると、「亡くなると思っているかもしれませんが、治療している人で来なくなる人は、元気になって治療が終わる人ですよ。」と。365日毎日、日常的に普通に治療が行われていることに、本当に驚きました。


-治療中も出社されていたとのことですが、体力的にいかがでしたか?


在宅勤務にすると言っておきながら、結果的には毎日出勤していました。財界の会合やお客様のパーティ―などは避けていましたが、来客対応や面談などは通常通り行っていました。6回の抗がん剤治療のうち3回目までは体力的に問題ありませんでした。4回目は1週間ほど辛い時もありましたが、業務に支障があるほどではありませんでした。たまたま治療が自分に合っていたのかもしれません。


がんサバイバーとして:日常生活への復帰と新たな気づき


-治療が無事に終わり、9月末にがんの消失が確認されたとのこと、本当におめでとうございます。治療後の生活に変化はありましたか?


ありがとうございます。主治医に「ゴルフに行ってもいいか?」と尋ねたら、「行けるものなら行ってみろ」と言われ、治療終了の直後に4ヶ月ぶりに行きました。1球目は空振りしたものの、なんとかラウンドすることができました。陽光の下でクラブを振るのは爽快だったものの、さすがに体力が落ちたことを実感させられました。


ゴルフ仲間と爽快なひと時を
ゴルフ仲間と爽快なひと時を

-そのようなご経験を経て、がん治療や働き方について、特に伝えたいことはございますか?


まず、がん治療に関しては、皆さん保険には入っていると思いますが、保険の見直しをお勧めします。昔の保険は入院が中心で、通院治療は5000円程度と手薄なものが多い。しかし、今は通院治療が主流です。通院治療の保障を手厚くしておくべきです。費用も少しかかりますが、いざという時の備えは大切です。そして、働き方についてですが、私自身、社長という立場でも在宅勤務にしたり、病気を告知したりすることに戸惑いがありました。普通にお勤めの方なら、なおさら「一旦会社を辞めなければならない」と考えてしまうかもしれません。容姿の変化をさらけ出したくないと、辞める方も多いと聞きます。しかし、私自身の経験から言えば、治療しながらでも働ける可能性は十分にあります。告知されたショックが大きくて、つい「辞めるしかない」「仕事はできない」という発想になりがちですが、治療と仕事を両立できるかもしれないのに諦めてしまうのは本当に残念なことだと感じます。


経営トップの使命:がんになっても働きやすい会社へ


-経営トップとして、その経験をどのように活かしていこうとお考えですか?


がんになると「治療」と「収入減」という2つの大きな不安を抱えることになります。なので、がんになっても働き続けられる環境を整えることが、経営トップとしてやるべきことだと痛感しました。そこで、「がん相談窓口」を会社に作ることにしました。社員には「相談に来てほしい、会社として対応できるし、実質的にできることはある」と伝えたい。私たちのホテルには様々な職種があります。例えば、体力的に厳しい業務についているなら、広報サポートや事務サポートなど、在宅勤務も取り入れながら、会社に迷惑をかけると感じたり収入を0にすることなく、また元気に働けるような道筋を作りたいと考えています。




-素晴らしい取り組みですね。具体的には、どのような体制を考えていらっしゃるのでしょうか。


まずは人事部が第一の窓口となります。がんになった社員の気持ちに寄り添い、不安に思っ

ていることや希望などを受け止め、仕事と両立する選択肢や使える制度などを提案サポートします。その為、まずは窓口となる人事部の担当者や、ホテルの現場で働く管理職の研修を行いました。がんになった社員がどういう気持ちで出勤しているのか、容姿の問題や体力的な不安を抱えていることなど、そして上司としてどう対応すべきか、職場ではどう受け入れ、行動すればよいのかということについて、しっかりと学んでもらいました。ここは非常に重要視したところです。


これから両立支援に取り組む企業へのメッセージ


-最後に、これから両立支援に取り組む企業へメッセージをお願いいたします。


部下からがんの相談をされたら、最初は戸惑うかもしれません。しかし、企業や担当者の対応一つで、その社員はほっとし、安心して治療と仕事に向き合えるようになります。ぜひ、それぞれの職場で、がんとともに働く社員が活躍できるよう、温かいサポートが提供できる体制を整える事を、がん治療経験者の一人としてお願いしたいと思います。


-䕃山会長、本日はご自身の貴重なご経験と、経営者としての治療と仕事の両立へ取り組む事の必要性を詳細にお話しいただき、誠にありがとうございました。会長の力強いお言葉は、多くの働くがんサバイバーやそのご家族、そして企業の方々にとって、大きな勇気と希望になることと確信しております。


こちらこそ、ありがとうございました。



2025年5月26日


語り=ロイヤルホテル 䕃山秀一会長

取材=がんと働く応援団 吉田 ゆり

文 =がんと働く応援団 吉田 ゆり

写真=株式会社ロイヤルホテル提供



※本記事はがんを経験された個人の方のお話であり、治療等の条件や判断は1人1人異なります。全ての方にあてはまるものではありません。

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