top of page

生活とがんと私 Vol.6 井浦玲子さん

更新日:2021年5月29日


長寿大国日本。生涯を通して2人に1人ががんを経験すると言われ

そのうち3人に1人は就労している年齢でがんを見つけています。

いざ自分がなった時、そして周囲の誰かがなった時

慌てず対処するためには、経験者の話に耳を傾けるのが一番です。

”がん=死”というイメージを払拭する為に様々な体験談をお届けしていきます。



インタビュイープロフィール

お名前:井浦玲子さん 

職業:臨床検査技師


がん種:乳がん

ステージ:2a    

治療内容:手術→ホルモン療法

休職期間:1週間

     (時短勤務→フルタイム)

 




40歳で乳がんに罹患。手術とホルモン療法を経験。手術から1週間後に職場復帰。その後は時間休等を使用して通院治療。周囲の人の協力と、副作用との向き合い方を工夫して働き続ける。横浜市みなと赤十字病院乳がん患者会ひまわりの会主催。



目次


・井浦さんのがんストーリー

・治療の決定には主体的に関わっていきたい

・がんと向き合いながら周囲とどうかかわっていくか

・副作用の前向きな捉え方

・がん治療を経て感じた大切なこと

治療と仕事の両立をする個人の方へのメッセージ



井浦さんのがんストーリー


ーまず、病気について教えていただけますか。


病名は乳がんです。胸のしこり気付き、病院で始めて検査を受けたのが38歳の時でした。最初は診断がつかず、職場の検診で乳がんだと診断されるまで2年かかりました。臨床検査技師をしているので、検査の精度や診断の難しさは理解しているのですが、最初の診断でグレーと判定されたとき、少しその判定を信じたい自分がいたのも事実です。今振り返ると、もう少し最初の段階で別の病院を探し、診断を得るといった努力ができていればよかったのに…という想いもあります。


ー確定診断の後はどうされたのですが。


様々な検査ののち、まず乳がん手術を受けることになりました。当時は同時再建手術が人気で時間がかかったため、乳がん手術のみ受けました。初診は1月、実際に手術を受けたのは3月でした。家族、友人含めて手術の説明を聞く予定の日に、東日本大震災が発生しました。結局その日には、説明を受けることはできず、手術前日に説明を受けることになりました。震災があったということで、手術の不安どころではなかったですし、こういった状況下で手術を受けてよいのかという想いもありました。ですが、いち早く元気になって職場に復帰することが今一番にやるべきことだと考えて気持ちを整理しました。


ー説明後すぐの手術に対しての気持ちを聞かせてください


入院した日に「全摘出か、部分切除か決めてください」と担当医師に言われました。私は再建を視野にいれた全摘出手術を受けることにしました。しかし、その日の夜は涙があふれました。自分の選択が正しいのかという不安が大きかったのだと思います。


ーそのあとの体調はどうでしたか。


手術前に患者会に顔を出していて、経験者から「胸の手術はそこまで痛くないよ」と聞いていました。事実、思っていた程痛みは感じませんでした。ただ、脇の下から切開しているので、腕を上げることが辛く、着替えに時間がかかるといった苦労もありました。ありがたいことに、職場の理学療法士の方についてもらい、リハビリをして腕の可動域を広げていきました。


ーリハビリはどうでしたか。


痛かったです。ですが、”つり革をつかむ”“雨戸の開け閉めをする”といった日常生活の動作をリハビリにつなげ、自分を適度に追い込みながら楽しみながらやっていました。



治療の決定には主体的に関わっていきたい


手術の際、どれだけ仕事を休むべきか医師と相談しました。「退院した翌日から仕事される方もいる」といわれ驚きましたが、自分の仕事のスケジュールも考慮して、3月23日に手術、4月1日から仕事復帰しました。

術後の病理診断の結果がでたのが1か月後でした。結果は芳しくなく、がん細胞は浸潤しており、増殖率も速いタイプでした。この時期はホルモン療法と抗がん剤治療を両立させるべきか、非常に悩みました。


ーどのようにしてご自身で結論を出したのですか。

患者会を活用して話を聞いたり、オンラインやセカンドオピニオンで医師に相談しました。

また、薬剤師の方から遺伝子検査を進められました。ホルモン療法のみの場合と、ホルモン療法と抗がん剤を上乗せした場合の結果を比較できるものでした。保険がきかず高額でしたが、検査を行った結果、私の場合は、どちらの選択肢も結果に違いがなかったので、仕事との両立を考慮して、抗がん剤治療はしないと決めました。


ー結果を主治医と話したときはどういった反応でしたか。


主治医も抗がん剤治療を勧めていたため、再発してしまった場合その後も診察してもらえるのか不安がありました。けれど、主治医に相談した際「ホルモン療法だけで再発したとしてももちろん最期まで看ますよ。私は井浦さんの主治医だから。」と言ってくれました。抱えていた不安はこの一言で一気に解消されましたね。



がんと向き合いながら周囲とどうかかわっていくか


ー今回の治療のことは会社にどう伝えていたのですか。


乳がんだと診断される前に上司や人事担当者に伝えていました。職場の上司からは「治療に専念してください。仕事の事は心配しなくて大丈夫だから。」と言われていました。私も検査や治療の進捗ごとに職場には状況を報告していました。


ー会社側はどんな反応でしたか。


受け入れてくれました。過去に乳がんで休暇をとられた方が職場にいたので、長く休むイメージを持たれていた中で復帰したので、早く戻ってきたなという印象を持たれたと思います。


ー病気のことを話すことに恐怖はなかったですか。


私の場合は、年上の方もいる職場で働いており、話すこと自体に抵抗はなかったです。しかし、他部署の方には広めてほしくないという思いもあり、病気を報告した際には「個人情報なので広めないでほしい」とくぎを刺して話しました。


ー病気について周囲に伝えてよかったですか。


はい、よかったです。周囲から様々な協力をいただけますし、こちらから適宜病状を報告することで、過度に気を使わせてしまうことがないようにしていました。

また、万が一抗がん剤を選択した場合の、治療のサイクルや突然の休みを考慮した人員配置を会社側に相談していました。予測を立てて伝えると、相手もイメージしやすいので、重要かと思います。


ーパートナーにはがんのことをどう伝えたのですか。


しこりができた時点で伝えました。彼にはタイムリーに状況を報告していました。

彼自身も身内をがんで亡くしていたので、親身に相談にのってくれました。ただ、がんであったために、年下であった彼との結婚は相手のご両親の反対もありできませんでした。今は気にしていませんが、当時はとても辛かったです。がんになるということはこういったことにも影響するのだと感じました。



副作用の前向きな捉え方


ー治療はホルモン療法を選択された訳ですが、副作用とはどう向き合ったのですか。


更年期のような症状で汗をかく症状もでてきました。同僚が年上の方でしたので、同じような症状を共有できる方達で抱え込まないようにしていました。わかってもらうことが大切ですし、伝えることも大切です。一時期、副作用の一種で物忘れがひどい時期があり、段取りをとる仕事が苦手になった時期もありました。重要なことはノートに書き対応しましたが、「忘れていたら教えてください」と同僚にお願いもしていました。

本当に抜けてしまうので、この症状に対して思い悩む事はせず「薬の影響だ」と割り切っていました。今でも仕事の際には会話の内容や約束をメモしておくようにしています。お互いに声かけあえる関係を周囲と築いておくことも大切ですね。


ー他に日常生活で気を付けられたことはありますか。


食事を気を付けるようになりました。甘いものを控えて、タンパク質の摂取量を考えるようになりました。また、毎回同じ食材を買ってしまうとそればかりになるので、違う食材を買ってバランスよい食事をとるよう心掛けています。お弁当を作って、ジムに通って体力を戻したのですが、体調や体力が安定するまで2年くらいかかったように思います。



がん治療を経て感じた大切なこと


ー乳がんになる前と後で考え方など変化はありましたか。


はい、一番は自分の死を意識したことです。特に、お付き合いしている彼と来年の予定を確認したとき「次は行けないかもしれない」と実感した自分がいました。がんになるということは、「死ぬかもしれない」ということをリアルに考えるということ。

会いたい人に会ったり、伝えたいことをきちんと伝えようと考えるようになりました。

未来は永遠にあるように感じてしまいますが、実際は有限です。

人付き合いやモノの選び方もきちんと自分にとって必要なものを吟味するようになりました。


ー今の人生も充実してそうですね。


はい、仕事は仕事として割り切っている部分もあります。また、ホルモン療法をいつまで続けるのか、10年続けるかなど治療方針も迷いましたが、きちんと情報を集め、集めた情報から自分の生き方を鑑みたうえで落としどころを考え、担当医師と相談の上5年で終わりにしました。




治療と仕事の両立をする個人の方へのメッセージ


患者会などを通じて仲間を見つけ、希望をもって治療にあたることが大切だと思います。告知された当初は独りぼっちのように感じますが、私自身も患者会を通じて出会った元気な先輩方や気遣ってくださる職場の方々の支えもあり、希望をもって治療に向かうことができました。


今は様々な治療法があります。ひと昔前のつらいイメージのがん治療とは変わってきていますし、医師たちも患者さんに対してどういった治療がベストなのか親身になって考えてくれるので、安心してください。また、治療方針について自分自身で選択をしていく必要があります。医師に任せきりになるのではなく、自分自身がどうしたいのか、どんなことを大切に思っていて、どんな風に生きたいのか、きちんと医師に伝えて治療方針を決めていくことが大切だと感じています。



ー患者さんの側も医師に意見を言うということが求められているんですね


診察の際には緊張して聞きたいことが聞けないという方も多いと思います。私自身もそうだったので、医師に確認しておきたいことを必ずメモにして診察の際に聞くようにしています。また、医師に自分のことを理解してもらうという点で、身近に起きたできごとを伝えることも良いと思います。診察は自分だけの貴重な時間です。ぜひ有効に使ってくださいね。


―井浦さんの話を聞いて、周りの人に自分の想いを伝える大切さを感じました。これからのさらなる活躍応援しています。貴重なお話をありがとうございました。 


2021 年 3月17日

語り=井浦玲子

取材=吉田ゆり

文 =豊田志織(GHOボランティア)

写真=ご本人提供


感想・インタビュイーへのメッセージお待ちしております




閲覧数:4,755回0件のコメント

最新記事

すべて表示

生活とがんと私 Vol.19 藤原 真衣さん

“がん=死”というイメージを払拭する為に様々な体験談をお届けしていきます。今回は28歳の時、バーキットリンパ腫にり患した女性の体験談です。

目次1
bottom of page