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【一人で悩まない、抱えない。専門家たちの活用方法 第二弾】  産業医(後編) ~治療をしながら働く人の応援団~ 

更新日:2023年9月13日

がんの患者さんやサバイバーの皆さんを病院内外で支えている専門家の方たちをご紹介するシリーズ第二弾です。


産業医や武藤先生ご自身についてご紹介した前編で、以前よりも”産業医”を身近に感じていただけたでしょうか?後編も引き続き武藤剛さんにお話を伺います。






プロフィール:武藤剛さん。医学博士、総合内科専門医、産業衛生専門医、労働衛生コンサルタント、社会医学系指導医、難病指定医の資格を持つ。病気を一つの個性と捉え、人生とその個性を両立するための支援や仕組みを活用できる社会の実現に向けて取り組んでいる。








〈後編目次〉




【1.治療に伴う困りごとへの対応】


‐治療に伴う辛さはどのように解決していくのですか?


痛みは緩和医療でも評価されるようになってきて、ペインコントロールや緩和ケアがずっとオンコロジー(oncology 腫瘍学)の領域において取り上げられる一方、疲れや不眠、メンタルのことを含めた集中力など、より仕事に関わる症状は定量的評価しづらい側面があり、医療の現場で見逃されたり、後回しになってしまうこともあります。

例えば疲労感は、体の疲労感もあれば気持ちの疲労感もあって、そのベースに睡眠の問題があったりします。パフォーマンスを発揮するには、食事、栄養、睡眠はもちろん、オフの時間や休む時間をしっかり作る、そしてそれらを大切にする必要がありますので、そういう話もします。

また、病院では鎮痛剤で痛みを抑えるなど基本実薬を使いますが、産業医は社会的処方箋(ソーシャルプリスクライビング)を提案することが多いです。例えば、リモートや時差出勤、あるいは少し時短にする、といった働き方についてだったり、一時的にこの期間は休んでまた戻ったら?という提案とか、そういった仕事のやり方・進め方を調整して、仕事とのつながりを維持できるようにします。


‐その他の困りごとには、どう対応するのでしょうか。


困りごとを抱える方に対し、さまざまな制度を案内します。利用できる社会保障制度について詳しいのは、その道のプロである社労士さん、ソーシャルワーカーさん。彼らはお金や社会制度に関する知識を持っていて、患者さんの受援力(援助を受ける力)を高めたり、支援の輪へ取り込むやり方を知っていたりするので、病院の中ではそういう方に、企業の中だったら人事などにつなぐ、といったつなぎ役を担っています。

他にも、北里大学病院では入院患者さんに痛みに関するアンケートを実施しています。患者さんの仕事のニーズを病院側が把握しきれていないので、仕事に関する聞き取りもアンケートに含めてもらい、仕事で何らかの困りごとがあると答えた方全員にソーシャルワーカーが介入します。そして、この人はハローワークだなとか、この人は医師に繋げたら良いなとか、この人はどうやってうまく辞めるかっていうケースだからむしろお金の話だなとか、その辺をうまく振り分けてくださいます。私一人で困っている方に対応出来ているのではなく、ソーシャルワーカーの方が土台作りをしてくれて進んでいるのが現状ですね。




【2.活動の広がり】

‐幅広い年代の方の治療と仕事をサポートする他、取り組まれていることはありますか?


小中学校の学習指導要領にがん教育が盛り込

まれたこともあり、去年から、都内の公立小学校で6年生向けに授業をしています。

「自分が当事者になったらどうするか」、「お友達や家族、大切な人、将来ともに働く同僚も含め、周囲の方ががんになった時にどう接していくか」を子供たちに感じてほしいという思いがあります。

常日頃からがんり患リスクに気を付けていても、交通事故のように突然身に降りかかります。当然パニックになりますが、パニックが落ち着いた後、後悔しない行動がとれるかどうかが大事だと思っています。がんの様々な知識を忘れてしまうのは仕方のないことで、でも、そんな時に「周りの人とこういう風に接していくとか、なんか授業でやったな」と、伝えたことが生きればいいなと思っています。

両立支援のための仕組み・仕掛けづくりはこの10年でだいぶ進んだと思いますが、出来上がった仕組みを使う為には、当事者や周りの人たちがどうやって使うか、どう使ったら良いか、といったソフト面、マインドを理解している必要があります。しかし、マインドは昭和20年代も今も、あまり変わっていないように感じます。

大人はがんがタブーだった時代に生きてきて、困った時は周りの人に聞くぐらいでしたが、現代はネットでいくらでも情報が手に入る一方、正しい情報と怪しい情報が全部同じ温度で入ってくるので、判断が難しい時代です。だからリテラシーという観点で、私たちはちゃんと発信していかなくちゃいけないし、だからこそのがん教育だと思います。

がん教育というマインドを子どもに教えると親の教育にもなると言われていて、結果、大人の職場での接し方も変わると思いますし、そこが小学生の授業や若者も利用する病院の相談外来につながっていますね。




【3.目指すもの】


‐そうした思いがあるから、幅広く活動されているんですね。


医者は薬を処方したり治療方針を決めたりしますが、最終的には患者さん本人が、自分の力で病気を治します。そのためには気力も体力も必要です。

病院の中にいると、「患者さんが主役と言いながら、なんか、お医者さんが決めているな」と感じるかもしれません。けれど実際のところは、患者さんが自分で治す訳だし、それは会社でも一緒です。産業医が全てをアレンジする訳じゃなくて、関係する職種の方とコラボレーションしながら土壌づくりをします。

一方、両立支援って、会社の人事とか上司とかがそのマインドを持ってくれないと前に進まないんです。彼らがそういうマインドを持ってくれるためにどうしていくか、を考える必要があります。そういう意味で、今は働き方改革や健康経営、ダイバーシティといった外からの外圧というか、なんか「やらないと」みたいな雰囲気に迫られてやっているかもしれません。でも、現実の世界は、まずそこから変えていくしかないんです。

両立支援の特徴の一つが「長く付き合う」ということです。職場復帰の時だけ産業医が関わって終わり、にはなりません。治療を続けながらどう働いていくか、治療を続ける社員とどんな会社を作っていくか、という継続性です。ですから、産業保健に医師・医療という側面はあるけれど、会社のマネジメント側のような発想を持っていないと広がっていきません。そういった発想を持ちながら取り組み続けたいと思っています。



‐武藤先生、多くの方との面談や実際の取り組みで感じられている率直な思いなど聞かせていただき、ありがとうございました。目指す未来の実現に向けて邁進されている先生のさらなるご活躍を応援しています。



取材、文:一般社団法人がんと働く応援団 碇一美



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