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【一人で悩まない、抱えない。専門家たちの活用方法 第二弾】  産業保健師(前編) ~治療をしながら働く人の応援団~ 

がんの患者さんやサバイバーの皆さんを病院内外で支えている専門家の方たちをご紹介するシリーズ第二弾です。

産業医をご紹介した前回に引き続き、今回も職場で頼れる味方を紹介します。 産業保健師の方々に座談会形式でお話していただきました。


〈前編目次〉

【1.産業保健師とは?】

保健師は知っているけれど、産業保健師ってよく知らないなと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

少し整理しましょう。


保健師になるためには、看護師の国家資格を持ち、文部科学大臣の指定した学校において保健師として必要な学科を1年以上修めるか、厚生労働大臣の指定した保健師養成所を卒業した者が保健師国家試験に合格しなければなりません。

また、働く場によって名称が異なります(例:産業保健師、行政保健師、学校保健師)が、活動の目的が病気や怪我の予防であることは共通しています。

産業保健師は民間企業で、従業員の健康増進に向けた保健指導や、病気やけがの対応、メンタルヘルス対策などを行っています。


前回の専門家シリーズでご紹介した産業医は、法的に設置を義務付けられていますが、産業保健師は設置義務がありません。ですから、お会いしたことがない方が多い現状にご納得いただけるのではないでしょうか。



【2.参加者紹介】

高津戸真優子さん

外資系企業に勤務。社内唯一の常勤の医療職として、本社と各事業所の健康管理について、事業所の衛生管理者や健康管理を担当する社員と連携しながら、本社と各事業所とで整合性がとれるよう社内の制度作りを進めている。全社的なストレスチェックも担当している。


千葉朋さん

大手人材サービス会社に勤務。公認心理師の資格を所持していることから、不調者の面談を担当することも多い。ストレスチェックの事後対応、健康診断の事後対応、受診勧奨、健康増進のための取り組み(全国にある支店の衛生委員会への出席、研修の講師など)を担当している。


高野真理子さん

野村證券に勤務。看護職が東京に自身を含め6人、大阪に1人いるので、チームで業務を進めている。担当エリアにおける相談業務、保健指導等のほか、健康経営のテーマになっている事柄(女性の健康、がん対策を含む両立支援、喫煙など)を担当し、両立支援サポーターとして健康教育などを行っている。職場巡視や衛生委員会の参加、看護職のリーダー業務も担う。



【3.なぜ産業保健師に?】

‐産業保健師になったきっかけや、目指した姿などありますか?

高津戸:3年ほどがんセンターに看護師として勤めた後、ずっと抱いていた「海外に行きたい、留学したい」という思いから語学留学し、その後、海外で看護師を目指そうと思い始めました。1年間のコースに編入して、その国の免許をとって看護師になった時、がんセンターで働いていた経験を生かしたくて、オンコロジー(腫瘍学)とヘマトロジーという血液内科のがんの病棟に勤めました。4年半ぐらい現地で働き、日本に帰国して就職を考えていた頃、英語を話せる保健師を求めている企業がありまして、保健師の免許も持っているので、産業保健師として働き始めました。

今の職場は産業保健師として2社目ですが、いずれも外資系の企業で、英語を生かせるということを考えた結果なので、最初から産業保健師を目指していた訳ではなく、就職にあたっての理想像も当時はあまりなかったです。今も前職も医療職が1人の職場で同じ立場の前任者がいない、という状況だったので、どちらもほぼゼロからのスタートでした。それまで人事の担当者がやっていたことの引き継ぎから始め、手探り状態で試行錯誤しています。

千葉:私は幼い頃に怪我で入院をしまして、そのときに看護師さんに親切にしていただいた経験から、看護師を目指しました。 新卒で看護師として総合病院の消化器内科で勤務していた頃は、消化器内科の病棟だったので生活習慣病やがんの患者さんもいらして、過去の自分自身の選択を非常に後悔している方を多くお見受けしました。しかし、非常に忙しい急性期の病院でなかなかお話を聴けず、そのことを心苦しくも感じていました。

生活習慣病にしてもがんにしても、働き世代のうちから早期発見、早期治療につながる関わりができると良いなという思いから、話をゆっくり聴いて精神面もサポートできる保健師になりたいと転職に至り、2013年から産業保健師として活動しています。


‐自己紹介の際に公認心理師の資格をお持ちであるとお話がありましたが、どういった思いで取得されたんですか?

千葉:働き世代は、仕事といろいろなこと(がんなどの病気、家庭など)を両立していて、悩みを抱える方が非常に多い世代でもあります。そういった方が元気になるような役割も担っていけたら…と、公認心理師の資格を取得しました。

高野:私が通っていた高校はお医者さんのご子息が多く、医療系の進路なら医学部受験を目指す環境でした。でも私自身は、3年生まですごく楽しい高校生活を送ってしまいまして(笑)、浪人したんです。

そこで改めて、本当に医者になりたいのか自問し、当時多かった3年制の看護の短大に入りました。短大の先生が大変素晴らしくて、看護にちゃんと理論があることを教えてもらったことで、看護師はプロフェッショナルであると理解でき、看護職になろうと決めました。

でも、病院実習で、病気になった人と関わるのがスタートという点に少し違和感を感じ、当時は保健師の実習もあったので、そこでマス(集団、大衆)をみる保健師って良いなと思い、3年次編入(4年制大学の3年次から編入学できる制度。 専門学校や短期大学を卒業見込みの人などが対象。)をしました。

予防から携わるとか、人と長く関わっていきたいという考えが背景にあり、編入した大学で産業保健の授業を受けたり、夏休み期間にある産業保健の体験学習に行ったりして、やはり面白いと感じました。

私はそもそも産業という現場が好きで、工場を見たり、会社で働く人がどんな環境で働いているのかというところに萌えるタイプなので、きっとここで生きていく人間なんだなと実感し、この道を選びました。

最初は産業保健師のイメージは何も持っていなかったのですが、就職してから、野村の産業保健を形作ってくださった看護職の方にいろいろ教えていただきながら一緒に働く中で、社員をどう見るか、保健師ってどういうものか、が段々形作られていきました。

さっき高津戸さんがおっしゃってましたが、産業保健師ってこういうもの、というのがなかなか無い、みんなが腹落ちする成功事例のような共通イメージみたいなものが無い世界なので、今までいろんなことをやりながら、こんな風にやることが産業保健師なのかな?と一つ一つ形にしてきたように思います。



【4.“腹落ち”した理由】

‐先程お話に挙がったように、こういう風にやれたら良いという正解がイメージしづらい、産業保健師共通の正解が思い浮かべにくい、という思いは当事者にもあって、普段関わりのない方はなおさらどういう時に頼ったら良いか分からないという印象がありそうです。

高野:私、ものすごく聞かれました。私が入社する前の野村證券には大変スキルのあるカウンセラーがいて、社内で沢山の研修等もしていらしたので、社内におけるカウンセラーの認知度が高かったんです。そうすると、「カウンセラーと保健師って何が違うの?」と本当に何度も聞かれました。 それに答えられない自分がすごくもどかしくて。10年ぐらい、自分の仕事って腹落ちしないなーって、ずっとモヤモヤした日々を過ごしていました。社員には申し訳ないことですが。

‐10年ぐらいモヤモヤしつつも、今たどりついている答えがあるんですね。高野さんの中に、どんな答えが出てきたんですか?

高野:1人目の子どもを産み、育休を取り、何か変わるかなって思ったけれど、何も変わりませんでした。で、2人目を産んだ時に大学院に入りました。育休中、大学院で公衆衛生を学び、少し開眼しました。

自分にはマス(集団)をみるスキルが足りなくて、そこをもっとやりたいと思っていること、もちろん、個の対応についても、面接法のトレーニングなどをして個別対応の道筋を立てたりしますが、野村證券のように大きな集団として、社会の立ち位置も含めて大きいサイズでみるということが、自分のやれることだし、そこでどんなサポートが出来るか?という視点が見えてきたことで、自分としてはすごく腹落ちしました。

もちろん、それは万人にとっての正解ではなくて、でも、私の腹落ちしたポイントはそこだったんです。公衆衛生の疫学と統計学を学んだことが、すごく自分としては大きかったのかなと思っています。


‐そうすると、カウンセラーは個々の問題に寄り添い、産業保健師は個々の問題の他にも、組織全体として見た時に課題をどう捉えるか、今何を解決したら良いのかという全体像の把握とか、そういったことに取り組む点が違いなのかなと高野さんご自身は感じられているんですね。

高野:はい、大雑把ではありますが。 産業保健師が行政保健師と違う点は、高津戸さんは前任者不在の一人職場で外資系、千葉さんは複数人の医療職がいらっしゃる、というように、業務上求められるスキルや事務方の社員さんの理解度、人事的に目指しているもの、など、身を置く職場の状況が違っているところです。組織ごとの「これを良しとする」にばらつきを感じる領域なのかな、と勝手に思っています。




‐組織ごとに求められるものが違うから、そこに合わせるべく、皆さん試行錯誤されているんですね。

高野:おふたりが大きく頷いてる(笑)。


‐みなさんのお話を聞いて、産業保健師について理解できてきたように思います。同業同士でも直面している問題が違い、容易にやり方など共有できない側面があるんですね。

高野:高津戸さんとか千葉さんのところは、常勤で産業医の先生っていらっしゃるんですか?

高津戸:私のところはいません。嘱託で月に何回か、契約としては月2回ですね。本社の方に2回です。

千葉:創業当時から代表とともに産業医が常勤でいらっしゃいます。始まりが産業医あっての健康推進室、という形なので、産業医の動きとか判断に合わせて動いていく、という状況ですね。

高野:そういうところもいろいろですね。



産業保健師が以前より身近な存在に感じられてきたでしょうか?

後編では、産業保健師の皆さんの視点、日常の業務で感じていることなどを伺っていきます。 続きはこちら

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